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シャープがサムスンとの提携を受け入れた理由を考察、鴻海精密と比較する

サムスンがシャープの株式の3.04%に相当する104億円を出資するというニュースリリースが先週発表された。第3者割当増資として、割当先をサムスン電子ジャパンとする。1株当たり290円となる。シャープがEMS最大の台湾鴻海精密工業と契約した条件と比べて妥当なのか、考察してみよう。

シャープは、鴻海と最初に契約した1株550円という条件にこだわっている(3月7日の日本経済新聞)。この時の条件では鴻海の出資比率は、シャープ本体に対する9.9%(約670億円)のはずだった。ところが、株価は140円台にまで一時下がったため、契約の履行が延び延びになっていた。常識的には株価が下がれば買収金額も下がるか、出資比率が上がってしまう。鴻海が670億円を出資することはいとわない訳だろうから、出資比率は4倍近く上がることになる。シャープは鴻海の出資比率の増強を望まないはず。にもかかわらず、シャープが固執している1株550円で取引すれば、税務上は鴻海がシャープに対して株式を贈与した形になるであろう。もちろん、贈与税が発生する。

通常の株価取引であれば、やはり一般市場の株価をベースに20~25%アップした株価で出資するというのが常識的な考えである。現在は312円である。常識的な取引であれば、これに25%を載せて、390円が妥当な金額だろう。にもかかわらず、鴻海に対して1株550円に固執する一方で、サムスンから100円も安い290円で受け入れたのはなぜだろうか。この疑問は大きい。

鴻海は堺の子会社の液晶生産ラインの稼働率を上げ、米国のビジオ(Vizio)社に向けて液晶テレビを拡販、シャープの売り上げアップに貢献した。米国にはコビー(Coby)社という民生エレクトロニクスメーカーも台頭している。小売店ブランドのテレビも売られている。大画面液晶テレビ市場としては米国の存在は大きい。鴻海はEMSであるがゆえに、ブランドにはこだわらず、シャープとしても補完関係を構築できている。サムスンが欲しいのは米国市場だろう。だから、60インチ以上のパネルをシャープから調達し、それ以下は自社で生産するのがサムスンの狙いとなっている(3月7日の日経)。

しかし、サムスンはシャープにとって競合メーカーである。この競合からの出資額は鴻海の1/6しかない104億円。圧倒的に不利と思えるサムスンからの出資条件をのまざるを得なくなったと考えるべきかもしれない。シャープの自己資本比率は、メーカーとしては危険水域の10%を切っている。資本増強したルネサスでさえ、増強前の12年3月期でも自己資本比率25%を保持していた。シャープはもはや待ったなしの状況である。考えられうることは、サムスンがシャープ-鴻海との関係を嫌ったことと、シャープ自身も鴻海の手法についていけなくなったことのためにシャープが1株290円でもサムスンを受け入れた、という追いつめられた状況かもしれない。

筆者が台湾の記者と話をすると、彼らは鴻海を好ましい企業とは思っていない。批判的な記事を書くと、鴻海はいつも法的に訴えるからだという。このため、台湾の記者たちはビクビクしながら鴻海の記事を書いている。同様に、韓国の記者の中にはサムスン大嫌い、という者もいる。シャープの真実はどこにあるのか、もう少し時間が必要かもしれない。

東日本大震災から丸2年たち、半導体メーカーだけではなく、製造装置メーカーも代替生産体制や免震構造の工場建設などの動きがある(3月11日の日刊工業新聞)。日立ハイテクノロジーズが那珂工場に加え福岡県大牟田工場でも製品出荷を始め、ディスコが代替生産体制を検討しているという。また、0.5インチウェーハを使って1個のチップを連続生産する「ミニマルファブ技術研究組合」が4月から装置の受注活動を始めると6日の日経産業新聞が伝えた。

半導体産業は景況の方向にあり、WSTSは1月の世界半導体売上額が前年同月より3.8%増えたと発表した。ウェーハメーカーのSUMCOは生産ラインの閉鎖を予定していた長崎の工場の操業を当面続けることを明らかにした(11日の日経産業)。半導体需要をけん引するのはやはりスマートフォン。部品在庫も減少方向に向かっており、スマホの波に乗れるかどうかが企業成長のカギを握る。

(2013/03/11)
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