セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

台湾の鴻海、受託生産を変えずに顧客を家電量販店に拡大

|

先週は、インターネプコン展、カーエレクトロニクス展などがあった割には新聞紙上にはそれらのニュースがほとんど登場しなかった。明るい話題と共に、リストラや撤退の話もあり、まだら模様を示した。

前向きのトピックをまず紹介しよう。受託生産に特化している台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry、中国の生産子会社名はフォックスコン)が「自社製品を販売、(中略) 受託生産特化を転換」、という記事が15日の日本経済新聞に掲載された。自社ブランドで製品を販売するのかと思いきや、よく読むと、家電量販店のブランドで製品を売るという話だった。鴻海はアップル依存のビジネスモデルを改善するため、受託生産の顧客をこれまでのメーカー(ファブレス、垂直統合家電メーカーを問わず)から家電量販店に広げたものだ。自社ブランドを持たないことには変わりはない。

鴻海傘下の家電量販店サイバーマートがケーブルテレビ会社と組み、視聴契約とセットで販売する。製品そのものは鴻海が設計生産するが、あくまでも鴻海というブランド名を出さないという戦略に変わりはない。中国市場へは米国の家電量販店のラジオシャックと組み、中国におけるラジオシャックの店舗を活用、家電製品の拡大を図る。鴻海は受託生産戦略を変えることなく、顧客を広げていく新しいビジネスモデルを採用したといえる。メーカーとは競合しないため、従来の顧客からも受託できる。

余談だが、TSMCがあらゆる設計ツールを揃えている事実を踏まえ、IDMに参入すると警告するアナリストがいるが、これも鴻海と同様、TSMCがIDMと競合することは決してない。設計ツールを揃えることはあらゆる顧客の要求に応えようという姿勢にすぎない。逆にファウンドリがあらゆる設計ツールに精通していなくては顧客を獲得することはできない。ファウンドリの営業担当はRTLからネットリスト、GDS-IIを手掛けた経験のある設計エンジニアでなくては務まらない。

国内の大手部品メーカー2社が通信モジュールを強化するというニュースも将来性が高い。村田製作所は、ルネサスエレクトロニクスから購入したパワーアンプ事業を武器に、クアルコムやインテルと共同で新製品開発を進めている、と17日の日経産業新聞が報じた。これは、スマートフォンやタブレットのメーカー(顧客)に対してアプリケーションプロセッサを売る場合に、通信モジュールも一緒に提案することでソリューションビジネスとする。クアルコムやインテルがムラタのモジュールも一緒に売ってくれることになる訳だ。逆にムラタはクアルコムやインテルのチップもセットでスマホメーカーに提案できる。ルネサスがパワーアンプ事業を手放した理由を経営陣は、以下のように語っている。「パワーアンプ事業は受動部品が差別化の決め手となり半導体はもはや重要ではなくなったから」。これは、昨年の決算発表会で筆者の質問に対して答えたもの。パワーアンプは今、低消費電力化を進めるためエンベロープ技術の開発が世界で繰り広げられており、半導体に差別化要因がなくなってはいない。電力効率や付加電力効率などを上げ電池を長持ちさせる競争も相変わらず繰り広げられている。シリコン以外にGaNパワーアンプの開発も盛んだ。だから上の答えには納得できかった。傘下にあるルネサスモバイルが送信パワーアンプチップと一緒にモデムやアプリケーションプロセッサをスマホメーカーに提案する、という大きなビジネスチャンスを逃したかもしれないのである。

また、ミツミ電機は、米国のベンチャー企業グリーンヴィティ・コミュニケーションズと提携しZigBee通信モジュールを共同開発すると日経産業が15日に伝えた。このZigBee規格は、スマートホーム向けHEMSやビル管理向けBEMSなどの応用が見えてきたことで息を吹き返した。スマートホームだけではなく、これからはクルマにもZigBee規格が使われるようで、電気自動車やプラグインハイブリッドなどの需要も見込んでいる。ZigBee規格の基本機能と通信手段などをグリーンヴィティ社の半導体チップに集積し、そのチップとミツミの受動製品を搭載したモジュールを販売することになりそうだ。

別の話題として、厚さ4μm、幅20mmのリボン状ガラスを日本電気硝子が開発したと16日の日経産業が伝えた。3次元ICのシリコンインターポーザに代わりガラスインターポーザの基板に使える可能性がある。また、JX日鉱日石エネルギーは、燃料電池車向け水素ステーションを全国40カ所に開設する検討に入ったと15日の日経が伝えた。乗用車タイプのEVの走行距離の短さ(公称200km、エアコンを使うともっと短くなる)に対して、燃料電池車は1回の水素充填で700km走れ、充填時間も3分程度とガソリン車並みに短いことから再び脚光を浴びている。

企業再構築の話として、ルネサスは2012年度内(3月まで)にさらに3000〜4000人を削減すると17日の日経が伝えた。政府系ファンド産業革新機構の削減要求しているという。シャープは中国南京にある液晶テレビ工場を売却するが、買い手としてレノボが浮上したと18日の日刊工業新聞が伝えた。鴻海以外の買い手になる。ブリジストンはSiC単結晶ウェーハ事業から撤退すると18日の日刊工業が伝えた。タイヤ事業との相乗効果が見込めない、市場優位性の確保が難しい、などの理由による。

(2013/01/21)

月別アーカイブ