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ルネサス40nm車載マイコンのニュースがなぜ重要か

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先週、半導体業界を巡るビッグニュースといえるほどのものはなかったが、ルネサスの40nm車載用マイコンについて考えてみる。この製品発表の記者会見の場に出た者として、この発表に関する一般紙のニュース扱いが小さかったことに違和感を覚えた。

車載マイコンと一口に言ってもさまざまな機能部分に使われる(参考資料1)。自動車の電子制御機能はECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)と呼ばれる小さなモジュールが担う。自動車の中のエンジンだけではなく、車体(シャーシ)、車両(ボディ)、インフォテインメント、予防安全、EV(電気自動車)などさまざまな用途に使われている。このECUの頭脳(ECU全体の制御と一部の機能)がマイコンである。

ECUは高級車では70個程度、普及車でさえ30~40個使われているため、車載マイコンだけでもそれ以上の個数が使われていることになる。自動車メーカーの話では、ミッションクリティカルなECU(例えばエンジンなど)には冗長構成を採っており、2個並列に設置するという。このため、マイコンにとって自動車市場は極めて大きい。ECUの数は毎年、増えている。機械的な部品主体の自動車と比べ、ECUを多数搭載した自動車は安全・快適な機能を実現できる上に、摩耗や劣化が極めて少なく、信頼性が優れているからである。データは2007年までとやや古いが、ECUの増加は交通事故死の減少と相関がある(参考資料2)。


図1 ECUの個数(緑のバー)の増加と共に交通事故死(青線)は減少 出典:警視庁、立命館大学のデータを元に作成

図1 ECUの個数(緑のバー)の増加と共に交通事故死(青線)は減少 出典:警視庁、立命館大学のデータを元に作成


つまり、ECUをたくさん使うことで自動車は、安全性や快適性、信頼性を高めてきた。にもかかわらず、ある一般紙の記者は「ECUを使うからソフトウエアのバグが発生し、問題になるのではないか」、という質問をいまだにする。ECUやカーエレクトロニクスに対する理解は残念ながら低い。

今回のルネサスの記者会見には20名程度の記者が出席した。しかし、一般紙の扱いは小さい。日経産業新聞が10行程度の記事を流したが、日経本紙はわずか3〜4行、時事通信社からの情報を流している媒体はわずか2行というありさまである。記者数の割に採り上げたメディアは少なかった。

なぜセミコンポータルがこの発表を重視したか。ルネサスは自動車のECU市場を全部取るという方針を示した上に、自動車分野ではソリューションビジネスの考え方を示し、さらにグローバル市場への進出を本格化させてきたからである。この記事内容に関しては参考資料1を見ていただくことにして、ソリューションビジネスでは世界の半導体産業と同様、「部品屋」からの脱皮を図る考えが示された。例えば従来、車両制御には8ビットマイコンが使われていたが、今回のような32ビットのRH850がなぜ求められているのか、同社の責任者は自動車システムをきちんと把握し、もっとインテリジェントなワイパーなど新しいシステムの必要性を提案している。しかも、今回の製品は海外市場に向けている。今のところ海外の顧客がほとんどだという。これまでのルネサスとは違う、というはっきりした意思表示だと見ることができる。

Tech-On!IT MONOistなどの専門メディアは十分なスペースを割いて、ルネサスの発表を採り上げた。


参考資料
1. カーエレECU市場を全部取るという強い意志が集約されたルネサスのRH850 (2012/09/28)
2. 津田、「自動車の心臓部、メカからシリコンへ」、インターネプコン講演 (2011/01)

(2012/10/01)

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