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シャープとインテル提携、ルネサスに革新機構や顧客が出資などのニュース

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先週は、シャープとインテルとの提携交渉、ルネサスエレクトロニクスへの国内ファンドと顧客企業からの出資、というニュースが週末に相次いで報じられた。尖閣諸島問題で中国の激しいデモの末、パナソニックとキヤノンの工場が攻撃(attack)されたというニュースは海外にも伝わった(参考資料1)。

シャープとインテルの提携話は、通信社のロイターが特定顧客向けに流した記事を毎日新聞がいち早く採り上げた。ロイターのニュースでは、インテルが提唱する「ウルトラブックパソコン」仕様に向け、シャープに中小型液晶パネルを供給してもらうことを話し合っていたとある。ロイターが22日に一般向けに流したニュースがそれだ(参考資料2)。日本経済新聞が報じていないことが気になる。

ロイターの記事中、「資本提携に発展する可能性もあるという」という一文がある。毎日新聞が流したニュースでは、「シャープ:米インテルと資本提携交渉 300億円出資要請」がタイトルになった。毎日新聞の中では、「インテルがシャープに300億円超を出資する方向で協議しており」、と書かれている。毎日新聞の記事の信ぴょう性はどうだろうか?少なくともロイターの報道では、「インテルとの交渉は出資を前提としたものではないものの、『延長線上でそういう話が出てくる可能性はある』(関係者)という」と書かれており、二つの報道は対立している。これに対して、22日のサンケイビズではタイトルに「シャープ再建、右往左往 鴻海交渉難航 インテルとも接触」とあった。その本文では、8月30日に鴻海との共同記者会見がキャンセルされた背景について「・・・その頃、シャープの片山幹雄会長が渡米し、米半導体大手インテルと業務提携で交渉していたことがわかった」としている。その後、「インテルとの資本提携についても、シャープは否定する」と述べられている。

出資の話はともかく、シャープの中小型パネルをウルトラブック仕様にすることはシャープにとっては大きなビジネスチャンス到来、ということになりそうだ。インテルはテレビCMでもウルトラブックパソコンを宣伝しているが、パソコンそのものをインテルが作る訳ではない。その仕様を決めるのである。このことはインテルがPCIバスを提案した時のことを思い出す。インテルがPCIバスをパソコンメーカー、半導体メーカーに呼びかけ、デファクトスタンダードにしたことでさまざまな企業がパソコン分野に参入できるようになった。台湾のファブレス半導体メーカーはチップセット(ノースブリッジ、サウスブリッジ)に集中し、大きな市場を獲得した。この結果、インテルのCPUと台湾メーカーのチップセット、メモリ、HDDなどがあれば誰でもパソコンを商品として作れるようになった。

今回のウルトラブックの基本仕様は、インテルのCore iプロセッサを使い、厚さ2cm以下、価格1000ドル以下、というものだ。厚さには液晶ディスプレイが大きく係わる。このためインテルはシャープに接触したと見るのが真相だろう。ウルトラブックは次世代のノートPCのプラットフォームにすることによって、インテルはCore iシリーズのCPUの地位を確固たるものにしようという狙いだろう。仕様を決めていなければ、ARMに取られる可能性があるからだ。

もう一つ気になるニュースは、ルネサスに対してトヨタ自動車やパナソニックなど日本の製造業を代表する企業が政府系ファンドの産業革新機構と組み、1000億円超を共同出資する方向で調整に入った、という日経の記事だ。これは、9月3日のニュース解説で述べたように、米投資ファンドのKKRが1000億円をルネサスに出資するという話の続編である。日経によると、「現在、革新機構が中心となって出資案を策定中」とある。今回の話は、KKRのような米ファンドに対するアレルギーというか、KKRの話が先にあったから、後出しじゃんけんのように出てきた。

日経の記事の信ぴょう性はどうか。日経は22日に1面と2面でこの話を報じ、さらに23日にも同じような話を掲載した。今回は、革新機構への取材に基づく記事だろう。であれば事実に近いと思われる。革新機構は、KKRをけん制するという意図もあり、日経にリークしたのであろう。

ルネサスにとってはKKRか、革新機構か、どちらが良い方向に進むだろうか。ファンドと一口に言ってもうまく行っている所と行かなかった所がある。KKRはオランダの半導体NXPに出資し、フィリップス系の資本を一掃した。もともとフィリップスからスピンオフしたNXPは2年前までフォリップスの株式の10%を持っていたが、これも売却し、今はフィリップスからの完全独立を勝ち取っている。この第2四半期の業績を見ると、売り上げは10億9400万ドル、営業利益は14.3%、第3四半期の売り上げは前期比8〜10%増の見込みになることを発表している。売り上げはかつてよりも減少したが、利益の出ない部門を切り離すことによって経営は健全な方向に向かっている。

同じファンドでもブラックストーンやカーライルは米フリースケール・セミコンダクタに出資したが、当初はフリースケールの業績は回復せず、モトローラ依存の体質を変えられなかった。最近では、第2四半期の売上10億3000万ドル、営業利益1億1200万ドルとなっており回復傾向が見られる。カーライルは東芝セラミックス(現コバレントマテリアル)にも出資したが、コバレントの業績はこのところ芳しくないようだ。直近の財務状況は、ホームページから見ても2010年度の決算しか載せていないためわからない。2010年度の決算(参考資料3)は、売り上げ828億6600万円、経常損益3億7200万円の赤字で、純損益は11億3100万円の赤字となっている。

国内ファンドの革新機構の出資だからといって、うまく行くという保証はない。少なくともNXPを取材する限りにおいて、KKRはそれほどひどい株主ではなさそうに見える。むしろ、フィリップスからの独立を喜ぶ声の方が2年前でも強かった。

参考資料
1. Panasonic and Cannon Factories are Attacked by Chinese Demonstrators, Suspend Operations, TechCrunch (12/09/17) など
2. シャープ、米インテルと業務提携に向け交渉中=関係筋 (12/09/22)
3. 連結決算書類

(2012/09/24)

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