セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

TSMCがアップル・クアルコムの専用生産を拒否したことは事実か?

|

先週、国内における半導体関係の大きなニュースはなかった。海外ではアップルとクアルコムがそれぞれ自社向けチップをTSMCに専用に作ってもらおうとしたが拒否された、という噂が駆け巡った。また、アップルが12日に新製品発表会の案内を報道機関に配布したことがニュースとなった。ASMLの臨時株主総会では、共同出資計画が承認された。

TSMCの噂は、台湾では笑い話として採り上げられている。この話は8月29日にBloombergが伝えたもの(参考資料1)だが、噂話に尾ひれがついて広がり、まるで事実であったかのように業界を駆け巡った。PC MagazineやZDNet、DailyTech、Ars Technica、GigaOM、tuaw.com、Inquirer、the Mac Observer、EE Timesなどのメディアが後追いの記事を載せた。例えば、アップルとクアルコムはそれぞれ10億ドル以上の資金を用意して優先的にチップを作ってもらうことを提案したというのである。挙句の果てには電子技術者に読まれる学会誌のIEEE Spectrumでさえも、TSMCのモーリス・チャンCEOが両社の提案を拒否したという記事を掲載した。どれも噂にすぎず真実ではなかった。

TSMCは、公式には何もアナウンスしていない。次々と駆け巡る噂に対して、筆者も思わず台湾に問い合わせたが、事実ではないことがはっきりした。TSMCは拒否もしなければそのような提案もないとしている。どうやら、TSMCが最近開催したインベスターズ会見の質疑応答の際に、モーリス・チャン氏が「特定の1〜2社のために専用ラインを作る意味はあると思う」と答えたことが事の発端らしい。台湾の知人は、Bloombergには半導体業界について全く知識のない記者がいる、と強い語調で述べた。

日本でもいろいろなメディアから発信される産業やビジネス関連のニュースには、非公式な提携の噂話も出てくるが、こういった非公式の話が出ると、相手の企業から秘密を守らない企業とは組めない、と言われ破談になるケースが極めて多い。特に外国企業との提携の場合、日本の企業や政府などの組織がメディアに提携話をリークし続けていると日本そのものが信頼されなくなる恐れがある。

通常、記者発表の日を公開することはまずないのだが、今回アップルが12日(日本時間は13日)にメディア発表会を開く、とメディアに流した情報が公になった。記者会見の案内文には12日の12という数字の影に5という数字を載せている(図1)。この5という意味は、iPhone5ではないだろうか、と推測しているメディアは多い。テレビのニュース番組でさえ、この話をとり上げた。しかも、発売日が9月21日だとも言われているが、やはり推測の域を出ない。というのは、アップルは情報管理の厳しい企業であり、アナウンスの内容は発表日まで漏らさないことがこれまでの原則だからである。


図 アップルの記者発表案内

図 アップルの記者発表案内
http://www.mobilebusinessbriefing.com/articles/apple-hints-at-imminent-new-iphone-launch/25167?elq=f4d61218fb514e13967e9ccb92b69021


EUVリソグラフィ装置を設計開発しているASMLの共同開発プログラムが正式に始まる。9月7日に開催された臨時株主総会で承認された。米国の反トラスト法に触れないような手続きも完了している。この共同開発プログラムの参加メーカーは、インテルとTSMC、サムスンの3社。3社はASMLの次世代リソグラフィ技術の開発に5年間で総額13億8000ユーロを提供する。ASMLは彼らに対して総額の23%の株式を発行する。金額にして38億5000ユーロになる。ASMLは既存の株主(この3社を除く)に対して、シンセティック・バイバック(Synthetic Buyback)を行う。これは、1株当たり9.18ユーロを支払い、ASML全体の既存株主比率を77%にするというもの。既存株主に対して株式の希釈化を買い戻し(Buyback)という形で補償しているといえよう。

国内では、半導体回帰の姿が見え始めた。液晶製造装置の売り上げが激減したアルバックは、脱液晶体質を目指すとして、半導体を成長の一つの柱として力を入れることが小日向久治社長のコメントとして8日の日本経済新聞に掲載された。同日の日経では、SiウェーハメーカーのSUMCOが2〜7月期に黒字化したことも伝えていた。同社では、半導体用Siウェーハの販売が底堅く、不採算の太陽電池向けウェーハから撤退したことが功を奏した。液晶は、表示デバイスであり表示機能しかないため、半導体と比べると拡張性に乏しい。また太陽電池は補助金があって初めて成り立つビジネスであり、市場経済の産業にはまだ育っていない。やはり、半導体はこれから先のどのような成長分野にも対応できるフレキシブルなデバイスであり、これからも成長し続けることは間違いない。

参考資料
1. Apple, Qualcomm Exclusive TSMC Bids Spurned for Supplies

(2012/09/10)

月別アーカイブ