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政府の日本再生戦略原案、復興特区の実現で新成長産業の創出に期待

先週、日本政府から日本再生戦略原案が発表された。日本の半導体産業にとって、世界の半導体産業並みあるいはそれ以上の成長力を持つためには、政府の支援は欠かせない。しかし、経済を成長させるのはあくまでも民間企業。政府の役割は企業が成長しやすくするための環境を整えることである。

今回、東日本大震災・原子力発電所の事故からの復活、という項目を最初に掲げており、その中でも「復興特区や民間資金を十分活用し、新産業の創出など新成長戦略を先取りして実施する」としている点が注目される。復興特区での期待は、規制緩和と自由経済貿易である。規制緩和によって民間企業が自己責任で自由に誰でも市場に参入できる環境を整えることが経済を発展させる、と1980年代に英国のサッチャー首相が述べている。「灰色の英国」、「英国病」とかつて揶揄された英国がサッチャー改革によって見事に復活したように日本が復活するための実験を是非行ってほしい。今は「Japanize」(日本化)という言葉が、「国家経済が悪い」とか、「重要な改革を先延ばしする」という悪い意味で使われている。

経済特区という言葉がいつの間にか日本から消え去り、日本の経済も停滞してきた今、東北の復興を手掛かりに特区を日本全体に広げていく責任を政府は持っているはずだ。特区を世界に向けて開放するという実験によって、海外企業や日本企業が特区に来れば雇用創出につながる。

半導体産業をはじめとする製造業において新たにビジネスを始めるためには、「ヒト、モノ、カネ」をどれだけどのようにして用意するかが最大の課題である。これら三つはすべて企業が責任を持って揃えることではあるが、政府の支援も望まれる。特に、モノを作るのは企業の責任だが、「ヒト」(相対的に少ない理科系人間を増やすための教育)と「カネ」(企業減税や、タックスホリディのような仕組み)は政府の責任も大きい。野田政権は消費税増税だけではなく、民間企業を活性化するための仕掛けも見せてほしい。

しかし、今回の「日本再生のための具体策」を見る限り、細かい所を指示するような方策が多い。例えば、「グリーン部素材が支えるグリーン成長の実現」、「次世代自動車での世界市場獲得」、「蓄電池の市場想像と競争力の強化」、「グリーン・イノベーションによる海洋の戦略的開発・利用」、「エネルギー制御システム(スマートコミュニティー)の構築および海外展開」といったテーマが並ぶが、これらすべてを実行するのは民間企業である。従来通り、こういったテーマに補助金を出すだけでは競争力が付かないことはこれまでの歴史が証明している。こういった分野に進出する企業の研究開発費の減税や、今回の震災でさまざまな寄付を行った東芝や日立、東京エレクトロンなどエレクトロニクス企業への税金控除など、企業が活性化するための仕組みを政府が本格的に見直し、競争力を付けるために必要な支援を整理して見せる必要があろう。

先週は後工程のニュースも相次いだ。12日の日刊工業新聞によると、体積比でQFNの60%に削減した半導体パッケージを大日本印刷が発表した。LGAリードフレームを使い、トランスファーモールドの周辺の厚みを従来の0.5mmから0.2mmへと薄くしたとしている。パッケージ構造を従来の四角形状から円錐状にすることで実装時の熱応力を均一にし、熱応力に対する信頼性も向上させたとしている。

もう一つは、17日に日経産業新聞が掲載したニュースであり、ディスコは切断装置を4割増産するという。切断装置は、半導体ウェーハを切断しチップに切り離す工程に使う装置で、スマートフォンの需要拡大などで海外半導体メーカーからの設備投資が堅調なためだという。

一方で、半導体産業は先行き不透明な部分も出てきており、アプライドマテリアルズは、2012年度(10月28日に終了)の売り上げ見通しを当初予測の91〜95億ドルよりも下回りそうだ、と発表した。ここにきて、やや停滞感が出てきているようだ。TSMCやサムスン電子の株価がやや下落し、AMDも下方修正した、と12日の日経産業新聞が報じている。やや要注意というところかもしれない。

(2012/07/17)
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