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日欧米の国際的なコラボレーションが大発見を導いた

エレクトロニクスや半導体というテーマからは外れるが、「ヒッグス粒子が99.9999%の確率で存在する」というニュース記事が7月5日の日本経済新聞の1面トップを飾った。ヒッグス粒子は、物質がどのようにしてこの世に生まれたかを説明する過程で見られるはずの素粒子の一つだ。この成功を導いた要因の一つに国際的なコラボレーションがある。

歴史的な発見には欧州合同原子核研究機関(CERN)が建設した巨大な加速器LHCの存在が欠かせない。1周27kmと山手線並みの大きさの加速器の建設や装置の改造に1兆円近い資金が投じられたと日経は報じている。1国では出せない費用である。この実験に参加したのは、東京大学など日本の16の大学・研究機関が参加する「アトラス」と欧米の「CMS」という二つのチームだ。まさに日欧米の協力によってこの成果を生んだといえよう。

この実験は、宇宙の誕生、ビッグバンが起きた瞬間は全ての素粒子が光速で飛び交っていた、という仮説から始まる。アインシュタインの特殊相対性理論によれば、光速では質量が無限大の状態に相当する。有限の質量を持つためには、光の速度よりも遅いことが条件になる。光速の素粒子を光速以下の素粒子に変換するための素粒子がヒッグス粒子だと言われている。この仮説を裏付けるためには光速に近い素粒子を実現し、数億分の1秒内に多数の粒子から速度を落とすための作用を行うヒッグス粒子を見つけなければならない。このために巨大な加速器が必要とされたという訳だ。

1兆円近い投資が必要な設備の稼働には、国際的なコラボはもはや欠かせない。数年前シャープが総額1兆円近い設備投資を堺で行うというニュースを発信した時、IBMやインテルではとても通らない投資規模だ、と米国の半導体業界人から言われたことがある。世界的企業のIBMやインテルでさえ、巨大な投資には全社でROIを含めた詳細な議論を繰り返す。IBMが全世界の企業の研究所について、研究投資と売上金額について詳細なデータをとってみたところ、相関は全くなかったと、筆者とのインタビューで語っている(参考資料1)。すなわち、研究にいくら投資しようが、売上とは関係ない、という事実である。この結果、研究投資が必要なテーマに対して、IBMはコラボレーションによって研究成果と売り上げに見合うシステム「コモンプラットフォーム」プロジェクトを立ち上げた。コラボレーションする相手には国境はない。

先週、コラボレーションとして、NECとレノボ、マイクロンとエルピーダ、日出ハイテックとアイシン精機、に関するニュースが相次いだ。NECとレノボは、パソコン事業統合前の合計市場シェア23%から26.4%に上がった、とシナジー効果を強調した。7月5日付けの日経産業新聞によると、レノボはかつてIBMのパソコン事業を買収した後に販売増やコスト削減を急いだ結果、IBMの優秀な社員が離反し、シェアが落ちたという苦い経験があった。このためNECとの統合では、NEC側の意向を尊重し、当初NECの米沢工場を閉鎖するとしていたが、レノボは米沢工場の重要性を改めて従業員に伝えたとしている。

両社はそれぞれタブレットも開発しているが、今後はモバイル端末でも協業すると発表した。レノボにはパソコンだけではなくスマートフォンの設計力もあるが、NECの方が携帯端末技術は進んでいるようだ。パソコンの低コスト技術を持つレノボとのコラボは、NECにとっても今後の低コスト技術を身につけるチャンスかもしれない。

会社更生手続き中のエルピーダメモリをマイクロン・テクノロジーが買収することが決定した。マイクロンは、エルピーダの全株式を600億円(これが買収金額となる)で取得する。さらにマイクロンはエルピーダにDRAM製造を委託し、その対価として1400億円を支払う。エルピーダ側には2000億円が手に入る。エルピーダは負債総額4200億円の一部を債権者に返済するが、債権の7割は返済されない見通しだと3日の日経は報じている。

最後のニュースとして、アイシン精機が大分の日出ハイテックの株式33.4%を取得する、と3日の日経産業が報じた。大分県の日出町では、日本テキサス・インスツルメンツ社が日出工場を閉鎖するというニュースが今年の2月に流れ、雇用が失われることへの懸念が出ていた(参考資料2)。日出ハイテックは半導体後工程・テスト工程などを受け持つ企業であり、TIからの注文がなくなってしまうと心配された。今回、アイシン精機が日出ハイテックの株式を買い取ることで、経営基盤がしっかりすると共に、アイシンからの受注も見込める。九州北部の半導体産業がさらに活性化することを祈る。

参考資料
1. EDN50周年記念特別号「エレクトロニクスの50年と将来展望」、2007年1月1日発行
2. TI日出工場閉鎖だけではなく、3D IC、BEMSなど前向きの記事も多かった先週 (2012/01/30)

(2012/07/09)
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