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ネクサスQを米国内で生産するグーグルの戦略に注目

グーグルが新型携帯端末「ネクサス」シリーズを発表したことの影響をさまざまな角度から見てみよう。国内では6月29日の日経産業新聞などがグーグルの開発者会議におけるタブレット発表の様子を報じただけにすぎないが、海外メディアはグーグル一色だ。国内メデイアは7月1日から始まった再生可能エネルギー全量買取制度のニュースが多かった。

図 グーグルのネクサスQ

図 グーグルのネクサスQ


今回、グーグルが発表した端末は3種類(参考資料1)。タブレットの「nexus 7(ネクサスセブン)」と、音楽プレーヤー「nexus Q(ネクサスキュー)」、そしてスマートフォンは「Galaxy nexus(ギャラクシーネクサス)」である。スマホはサムスン製のGalaxyシリーズの一環であり、グーグルブランドで販売することの意味はさほど大きくなく、これについての報道は余り見かけない。ただし、最新のAndroid OSであるバージョン4.1(コード名:ジェリービーン)を使っている。

グーグルブランドのネクサス7は、ハード的には7インチ、1280×800画素のディスプレイ。HDビデオ再生なら9時間、ウェッブブラウジングだと10時間という電池動作時間を持つ。nVidia製のクアッドコアCPUと12個のGPUを集積したTegra-3アプリケーションプロセッサを使用しており、OSはAndroid 4.1をサポートしている。価格が199ドルと安いことも特長だ。

ソフトウエア的にはアップルのApp storeを強く意識しており、Google Playを通じて60万件を超すアプリやゲーム、電子ブックのコンテンツ、音楽、ビデオなどをダウンロードできる。

音楽プレーヤーのネクサスQは、個人向けのプレーヤーではなく、自宅のテレビなどで映画や音楽を楽しむためのプレーヤーである(参考資料2)。みんなで楽しむことからソーシャルストリーミングメディアプレーヤーと呼んでいる。ネクサスQ自身は丸い球状のハードウェアだが、クラウド上にあるビデオや音楽などのコンテンツにアクセスするのはAndroidベースのスマホやタブレット。手持ちの音楽やビデオを視聴する場合は、いったんGoogle Playへアップロードしておき、スマホやタブレットからネクサスQへストリーミングするように指示する。ネクサスQはオーディオマニアレベルの高音質で音楽を提供するという。価格は299ドル。

ネクサス7は台湾のASUS社が製造するが、ネクサスQはグーグルが米国内で製造するとNew York Times紙は伝えている(参考資料3)。グーグルは製造業を米国内に戻すための試み(「Designed and Manufactured in U.S.A.」プロジェクト)を行っている。中国での労賃の相次ぐ値上げによってオフショア生産のメリットが薄れつつある上に、雇用の創出という点からも米国内で生産してみようという試みだ。ただし、米国内のどこで作るかなど詳細についてグーグルは明らかにしていない。

海外生産は、製品原価に占める人件費の割合が大きい場合にはメリットがあるが、人件費比率が数%しかない半導体や一部のIT機器では国内で製造しても製品原価はそれほど高くならない。製品によっては流通経費・輸送コスト・部材の関税などを見込むと、海外生産はそれほど安くない可能性もある。国内雇用を確保した上で、低コスト技術を設計から製造までの工程に渡り開発し盛り込めば国際競争力がつく。日本でもグーグル方式を考えてみる価値はあろう。

7月1日からのエネルギー全量買取制度に向け、メガソーラーや風力発電所の新規事業計画が全国で200万kW(2000MW=2GW)超に達すると6月28日の日経が伝えた。ソーラーが1300MW、風力が750MWだとしている。原発2基分に相当する発電能力だという。29日の経済産業省が発表した買い取り対象と認定した発電設備は44件で合計4万1605kW(41.6MW)。これは6月18日の受け付け開始から28日までに認定した件数と発電能力。中でもソフトバンクは、今年度末までに全国11カ所にメガソーラーの発電設備(230MW)を設ける方針だ。京都市と群馬県楱東村でそれぞれ2MW強の運転を始めたとしている。

ただ、太陽電池事業を展開しているシャープと京セラは前期(2012年3月期)、赤字だった。シャープは今期も赤字の見込み。かたや、今や生産量で世界のトップを行く中国のサンテックパワー社は、日本市場にも食い込んできており、全量買取制度を狙っている。同社は、単結晶および多結晶シリコンを用いたウェーハ製造からパネルモジュールまで一貫生産している企業であり、オーストラリアのニューサウス・ウェールズ(NSW)大学で学んだ施正栄CEOが運営しており、長野県にも工場を持っている。その技術部門のトップであるCTOのStuart Wenham氏は今でもNSW大学の教授であり、ソーラーパネル企業をオーストラリアで起こしたことがある。完成品のソーラーパネルはUL、TUV、IECなどの規格認証に合格しており、25年保証を製品にうたっている。

工場のビデオを見ると(参考資料4)、ウェーハプロセスはもとより、パッケージング工程まで自動化が進んでおり、人件費の安さを売り物にしている訳ではなさそうだ。日本のメーカーが復活するためには、サンテックの持つ低コスト・高性能・高品質技術を自らも開発し世界と戦えるようにすることだろう。少なくとも日本国内で負けていては海外では勝ち目は薄い。


参考資料
1. Nexusホームページ
2. The world's first social streaming media player
3. With Nexus Q, Google Wants to Make Entertainment More Social
4. サンテックパワー社 会社紹介ビデオ

(2012/07/02)
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