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ファウンドリへの投資が活発に、サムスンの真相も考察

ファウンドリ投資が活発に動いている。TSMCとUMC、サムスンなどシステムLSIのファウンドリ企業が10億ドル単位の設備投資を行う。同時にサムスンにおけるCEO交代劇とアップルとの訴訟合戦、ファウンドリ戦略などの事実から、サムスンの真相が少しずつだが浮かび上がってきた。

こういった投資を加速する背景にあるのはスマートフォンの市場拡大だ。日本ではスマートフォンの出荷台数はフィーチャーフォン(従来の携帯電話機)のそれを昨年超えた。携帯電話出荷数全体に占めるスマホの割合は2010年に20%にすぎなかったが、2011年には50%をわずかに超え、2012年は70%近くになると、市場調査会社のMM総研が発表している(参考資料1)。日本のスマホ出荷台数比率は米国、韓国と共に世界的に高い方に属する。これから発展していく地域が圧倒的に多いため、世界市場として今後伸びる余地は広い。発展途上国ではスマホとフィーチャーフォンは同時に発展する。

6月6日の日本経済新聞は2012年にTSMCが11年比1~2割増の80~85億ドル、UMCが20億ドルを投資すると伝えた。TSMCの当初の計画では60億ドルだった。まずは生産能力の足りない28nmプロセスラインに投資する。UMCも負けてはいない。UMCは先月下旬、台南の工業団地において300mmウェーハプロセス工場Fab 12A Phase 5とPhase 6の起工式を行った。P5とP6への総投資額は80億ドルに及ぶ。20億ドルという数字は、このP5とP6の今年分の投資額と思われる。

UMCのファウンドリ戦略はTSMCとは違い、キーカスタマとの大量生産体制を構築することである。このためにサプライチェーン(装置・材料メーカーなど)と顧客(ファブレス、IDMあるいはシステムメーカー)とのコラボレーションを重視する(参考資料2)。ダイナミックに変化する市場の要求に素早く対処でき、しかもリスクを軽減する仕組みである。P5とP6は28nm、20nm、14nmに対応する。2013年後半に装置を搬入する計画だ。P5とP6の工場新設により2600人の雇用が生まれるとしている。

サムスンもシステムLSIに約20億ドルをソウル近郊の華城工場に投じると8日の日経が報じた。今月中に着工し、2013年末に完成する予定。300mmウェーハで14nmと20nmのプロセスを使うとしている。サムスンは、米国テキサス州オースチンにシステムLSI用のファウンドリ工場を持っており、これまでも10億ドル単位の投資を行ってきた。その先のプロセス工場として、米国ではなく本国を選んだ狙いは何だろうか。

折しも同日の日経に、サムスンのCEOとして権五鉉副会長を昇格させたというニュースが報じられた。これまでの崔志成副会長兼CEOは未来戦略室長に就く。権氏はこれまで半導体・液晶を統括してきた経営幹部、崔氏は携帯電話を統括してきた幹部である。サムスンの現状は、半導体・液晶よりも携帯部門の方が売上・利益の点で勝っている。にもかかわらずCEOを交代させた理由は何か。

サムスンはアップルとスマートフォンの特許を巡り、争ってきた。一方で、サムスンはファウンドリとしてアップルに半導体(アプリケーションプロセッサ)を提供してきた。CEOをスマホ部門長から半導体・液晶部門長に替えることでアップルとの関係改善を図ろうとしたと見るのが自然ではないだろうか。オースチンに10億ドル単位の巨額の投資を行ってきた以上、アプリケーションプロセッサのファウンドリビジネスを逃すことはサムスンにとって怖いはずだ。ファウンドリ企業を簡単に替えることは難しいが、アップルが細かいプロセスまでは理解しているとは思えないため(アップルはPA Semi買収で大失敗した苦い経験がある)、状況によってはTSMCやグローバルファウンドリーズに発注先を変えないとも限らない。少なくともサムスンが半導体・液晶トップをCEOにすることで、アップルとの全面戦争という懸念は和らげることができる。

サムスンの韓国におけるファウンドリ工場の設立は、アップルとの関係がさらにまずくなった場合に備えてのリスク分散ではないだろうか。オースチン工場での生産がアップル向けであることは公表されていないが、周知の事実である。アップルはスマホやPCなどの製品に使っている部品や技術のサプライチェーンは公表しないことを原則としているが、その実態はデバイスを分解する企業を通じて明らかになっている。

こういったファウンドリ各社の設備投資が活発化することで半導体製造装置業界は大きなビジネスチャンスを迎える。これを受けて、東京エレクトロンや日立ハイテクノロジーズ、アドバンテスト、ディスコ、日立国際電気など主要7社は、研究開発費を2012年度(2013年3月期)に前期比4%増の1822億円(7社合計)と3年連続で増やす、と5日の日経は報じた。7社全体の研究開発費が売上合計に占める比率は、今期9%を超え、1割に近づく。直近の底だった2004年度と比べると4ポイントの増加になる。

6日の日刊工業新聞は、10年ほど前の「共同ファブ」構想を悔やむ声を伝えている。しかし、ファウンドリ事業のビジネスモデル、顧客への価値、マーケティング体制、設計体制、資金調達、顧客見通しなどを確立すれば、日本のファウンドリビジネスは今からでも遅くはない。成功させるためには、ファウンドリをただの製造だけを行うビジネスという捉え方から脱却する必要がある。


参考資料
1. スマートフォン市場規模の推移・予測 (12年3月)
2. UMCニュースリリース (2012/05/24)

(2012/06/11)
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