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SiC・GaNパワー半導体と国内ファウンドリビジネスのニュースが相次ぐ

先週は、SiCやGaNなどのパワー半導体に関するニュースが相次ぎ、日本の半導体プロセスのファウンドリに関するニュースも2件あった。SiCやGaN系などのパワー半導体はエネルギーバンドギャップが広く、高温に強いうえに半導体材料としての耐圧が高いという利点がある。ファウンドリビジネスはまだ日本では成立していない中、どう取り組むか。

図 三菱電機の156kVAのSiCインバータ

図 三菱電機の156kVAのSiCインバータ


SiCのパワーMOSFETを使えばクルマや産業機器などのインバータを小型化できる。理由は二つある。一つ目として、SiCは元々の誘電耐圧が高いために不純物濃度をシリコンよりも減らすことなく、アバランシェ耐圧を上げることができることで直流ロスを減らせる。二つ目は、IGBTとは違いスイッチング時における少数キャリヤによる蓄積時間が存在しないため高速スイッチングができ交流ロスも減らせるからだ。IGBTはバイポーラ動作をするため、スイッチングオフ時に少数キャリヤの蓄積時間があるため、すぐには電流が止まらない。

三菱電機は、体積が3.1リットルで出力156kVAというSiCフルインバータを開発、その動作を実証した。SiCフルインバータとは、スイッチングトランジスタにSiC MOSFETを使い、余分な電流を素早く逃がす高速ダイオードにもSiCショットキーダイオードを用いたもの。体積1リットル当たり50kVAと高密度であり、しかも出力が156kVAと大きいため、自動車用途には十分使える容量である。kVAは電圧(kV=1000V)に電流(A)を掛けただけの数値であり、実際の出力は電流×電圧にさらに力率(りきりつ)を掛ける。力率は交流電圧に対して電流が少し遅れる状態に使う物理量で、負荷に寄生インダクタンスが加わると遅れが生じる。このインバータは強制空冷で動作する。5月31日の日経産業新聞によると5年以内の実用化を目指すという。

先々週、横浜で開催された「人とクルマのテクノロジー展」では、デンソーが3インチウェーハで作製したSiC MOSFETを用いてインバータを試作し、その体積が0.5リットルで出力30kWを示したデータを展示していた。1リットル当たり60kWという出力になる。小型化を追求するため、ダイオードとしてMOSFETに内蔵されている基板ダイオードを使い、ショットキーバリヤダイオードは使わなかった。強制空冷を前提としている。これはトヨタ自動車と豊田中央研究所との3社による共同研究だということだが、SiC MOSFETでインバータをどこまで小さくできるかという試作的な意味合いが強い。

パナソニックはGaNトランジスタとダイオードをサンプル出荷しており、2012年度下期(1〜3月期)にこのパワー半導体を量産する予定だ、と5月29日の日刊工業新聞が報じた。6インチシリコンのウェーハ上にGaNを成長させ、低コスト化を目指す。まずは600V耐圧の製品から量産するとしている。

試作品のファウンドリサービスは国内では産業技術総合研究所で行っているが、NTTアドバンステクノロジはファウンドリ事業を強化する、と5月30日の日刊工業新聞が伝えた。半導体やMEMS、材料分析などを専門とする10人程度の部門を社内に設置、NTTの全国の支店が大学や民間研究機関の窓口となるという。ファウンドリビジネスは製造することが専門であるが、顧客をとるためには設計技術に精通していなくてはならない。どのような顧客にも対応するため、あらゆる設計ツールを揃え、RTL出力からRDS II出力に至るまで、さらにはシミュレーションツールや検証ツールを揃え、さらにはIPをビジネスにするためにはシリコンで動作を実証することも必要だ。ビジネスとしてファウンドリサービスを成立させるためには設計エンジニアがマーケッティングや営業をすることは欠かせない。彼らを雇わなければ、目標とする年商10億円は無理だろう。

米スパンションはNANDフラッシュも製品化するが、このほど韓国のSKハイニックスに生産を委託する、と31日の日経産業が報じた。スパンションはこれまでエルピーダメモリをファウンドリのパートナーとしてきたが、エルピーダでの生産計画が止まっているとしている。ファウンドリの顧客としてはリスク分散の意味で2社購買は当然のことであり、エルピーダはこれによって顧客を逃がしてしまったという訳ではない。ただし、顧客対応をしっかりしていなければ本当に逃してしまうことになる。

これまで多くの日本企業のファウンドリ事業は、自社の生産能力が余っている時だけ受注するという「殿様商売」であり、海外のファウンドリ企業が行っている顧客重視のビジネスモデルとは全く違う。ファウンドリ事業を伸ばして顧客を増やすためには設計ツールや設計技術に精通した人間を雇うことがマストであることは言うまでもない。

(2012/06/04)
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