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ルネサスは残された社員のモチベーションを上げる方針策定を急げ

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先週土曜日26日の日本経済新聞の朝刊に掲載された「ルネサス、最大1.4万人削減、従業員の3割、主力工場、台湾企業に売却」と題する記事が1面トップを飾った。この記事は従業員4万4000人の約3割に相当する人を削減するとともに鶴岡工場をTSMCに売却するというもの。

半導体業界では、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併すると従業員数が多すぎる、と指摘する声が今でも強い。親会社と経済産業省の意向で合併した訳だが、この問題については合併前から言われていた。ルネサスエレクトロニクスが2010年4月に誕生して2年経ち、ようやく従来の問題を解決する方針を見せたということになる。

従業員を削減するということはそう簡単ではない。1980年代のシリコンバレーで不況になるとリストラを繰り返していた企業が、残された従業員のモチベーション低下に気がついたのは2000年代に入ってからだ。このため、「企業は人なり」を理解している企業は簡単には首をきらない。リーマンショックで売り上げが激減した時でさえ、リニアテクノロジーのボブ・スワンソン会長は、誰ひとり切らなかったと誇らしげに語った。人を減らさずに次の成長を考えることこそ、半導体経営者の腕の見せ所だ、と言わんばかりに自慢した。

今回、ルネサスは早期退職プログラムを計画するにあたり、退職金や特別加算金1000億円超を計上しなければならないという。この費用を捻出するために日立製作所、三菱電機、NECに支援を要請すると報じている。しかし、親会社がこの要求に応じるかどうか、まだ確定しない。これからのルネサスを考える場合、残された従業員のモチベーションをどのようにして上げるか、という方針策定も急務である。ルネサスが成長路線へ転換するためには「人」が最大の要素となるからだ。

鶴岡工場(正式名称はルネサス山形セミコンダクタ)をTSMCに売却するのは、システムLSIを製造しているからだとしているが、従業員1400名はTSMCが引き継ぐと報じている。詳細は、本日28日夕方から予定されている、ルネサスとTSMCとの協業に関する記者会見で述べられるのではないかと思う。この記者会見にはルネサスのMCU事業本部長とTSMCのスペシャルティ・テクノロジー担当役員が出席することになっている。

ただ、ルネサスに関する報道記事が正しい姿を描いているかどうか疑問は残る。エルピーダが破綻した後に大きな赤字を計上したルネサスも危ない、というトーンの記事が新聞や週刊誌の報道で見られる。しかし、前向きの発言はほとんど報道されない。例えば前回の決算報告記者会見でCEOの赤尾泰氏がマイコン、中でもアナログ回路混載マイコンや40nmのハイエンドマイコンRH850をはじめ、携帯電話ではLTE向けモデムとアプリケーションプロセッサで世界のスマートフォン市場へ打って出ようとするルネサスモバイルなど、前向きの製品戦略を初めて述べた。ルネサスモバイルの海外売り上げはこれから伸びそうな気配でデザインインは海外9件、国内5件で海外比率が高い。にもかかわらず、こういった前向きの製品戦略を初めて語ったという事実を採り上げたメディアは少ない。

今回のリストラ報道とは違い、未来に向けたニュースもあった。ソニーはCMOSセンサで出遅れたものの、光をたくさん採り入れられる裏面照射型センサで一気に市場シェアを上げた。積層型CMOSセンサをスマホ向けに外販していく、と23日の日経産業新聞が伝えた。ただ、これまでもTSV技術を使ったCMOSセンサを出荷しており、アップルのiPhoneに採用された実績がある模様で、正しくは外販を強化していく、というべきだろう。

OKIは電子機器のEMSサービスを強化、売り上げ15%増を目指す、と23日の日刊工業新聞が報じた。同社は通信インフラ機器向け大型多層基板の実装ライン事業に2億5000万円を投じ、自動化による作業効率を上げることで新たな需要に対応するとする。もちろん、鉛フリーはんだプロセスを使う。

22日の日刊工業新聞は、熱電変換素子を電源とするワイヤレスセンサネットワークを村田製作所が自動車向けに提案する、という記事を掲載した。このセンサネットワークには買収したフィンランドのVTI社のMEMS圧力センサを使い、エンオーシャンのエネルギーハーベスティング技術を利用するとみられる。

台湾のUMCは6400億円を投資して台南市内に28nm/20nmプロセスの300mmウェーハラインを建設する、と23日の日経産業が伝えた。このほど起工式を行い、2014年の稼働を目指す。28nmでTSMCがトラブルを起こしたと伝えられ、ライン不足になった要因がスマホやタブレット用のアプリケーションプロセッサ需要であったことから、UMCは投資に踏み切った。アプリケーションプロセッサはこれからもますます微細化が必要になることははっきりしており、10nm台プロセスを準備することも求められるだろう。

(2012/05/28)

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