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東芝、シャープともグローバル化を進めることでテレビ事業を立て直す

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先週は、東芝がテレビ事業を立て直すため深谷事業所での国内生産から撤退し、海外での委託生産を50%以上に高めると発表した。これは東芝の中期計画に関する記者発表の中で17日に明らかにされたもの。これによって12年度の黒字化をめざすとしている。

この記者会見が行われた当日、日本経済新聞は、東芝が中期計画で2012年〜14年の3年間の設備投資・投融資計画で機動的なM&Aや新規工場建設などに使える特別枠を11〜13年度計画の1割から3割に増やす方針を決めたと報道している。

東芝の発表前の4月はじめに、シャープが鴻海精密工業に9.9%の出資を仰ぐ、という業務提携を発表したが、その裏話が本日(5月21日)の日経に掲載された。それによれば、2011年度に3760億円の赤字を出した状況をシャープの町田勝彦前会長は一過性とは捉えていなかった。「日本のデジタル家電の限界。5年先10年先を考えたら、今までのやり方でいくら頑張っても、結局は座して死を待つことになる」と語っている。

町田氏は増資するための資金調達の難しい状況をみて、シャープ堺工場の運営会社であるシャープディスプレイプロダクトへの出資を鴻海精密に要請した、と日経が伝えている。こういった海外企業とのパートナーシップに対して、「乗っ取られる」とか「先端技術が流出する」といった感情的な反発は当然あろう。しかし、こういった反発は、ある意味で古臭いドメスティックな感情にすぎない。今から四半世紀も前、英国のサッチャー首相(当時)が構造改革の中で、伝統的な国営企業ロールス・ロイス社をドイツのBMWに売却した時も、英国のメディアや市民から、「英国の魂をドイツに売るのか」といった感情的な反発が起きた、と自身の著書(サッチャー回顧録)の中で述べている。さらにグローバル化が進んでいる今、こういった感情だけに頼れば、まさに座して死を待つことにつながるだろう。

現実に英国では外資による直接投資額の対GDP比は日本よりも1桁大きい。年によって異なるが、GDPの40〜50%が外国投資である。これに対して日本はまだ2〜4%しかない。英国は、外国投資によってよみがえった、と言っても過言ではない。英国が外国に売られたというイメージも全くない。80年代にサッチャー首相が来日・企業誘致を行った結果、日産自動車やNECの半導体事業、富士通などが英国へ進出したことを覚えておられる読者も多いだろう。

外国企業に勝ち組が多い今、その中身をよく見ると、グローバル化によってパートナーシップを築くことこそ、勝ち組パターンになっている。セミコンポータルは17日に、SPIフォーラム「グローバル化の先駆者に学ぶ」を開催したため、筆者は東芝の記者会見には出ていないが、このセミナーの中身(東京エレクトロンの東哲郎氏、東芝の斎藤昇三氏、ルネサスモバイルの川崎郁也氏、アームの内海弦氏、日本ナショナルインスツルメンツの池田亮太氏の講演)は極めて充実しており、学ぶことが多かった。

町田氏の時代の捉え方は的確だと思われる。デジタル家電は、かつてのような「擦り合わせ」産業でなく「モジュール」産業になっている上に、製品のサイクルも極めて短くなっている。もはや2番手戦略は通用しない。「早く生産し、設計から製造まで安く作る、早く供給する、そして早く決断する」ために、どこと組むべきか、組む相手を国内だけでなくグローバルにも探し求めることが今、不可欠になっている。

(2012/05/21)

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