エルピーダの支援企業がマイクロンに、買収メリットを議論する
ゴールデンウィーク終盤の5日に、エルピーダメモリの支援企業が米国マイクロン テクノロジーに決まりそうだ、と日本経済新聞やYomiuri Onlineが報じた。韓国のSKハイニックスが応札しないと4日に発表してから急展開を迎えた。6日の日経は、マイクロンが2000億円超で買収、設備投資を含めた総支援額は3000億円弱になる見通しと伝えた。
エルピーダが2月27日に会社更生法の適用を申請、3月23日に適用が認められて管財人が坂本幸雄元代表取締役社長と申立て代理人の小林信明弁護士に決定した。以来、どの企業がエルピーダを支援するのか、さまざまな憶測が飛んでいた。SKハイニックスが応札しない旨を発表したことでようやく米国企業に決まり、その中でもマイクロンが応札することになった。
DRAM企業がメモリ企業に買収されることは、従業員にとってはDRAM技術の開発を続けられるという意味である。家族を含め路頭に迷わずにすむ。今回の応札条件には雇用を継続させることがあったらしい。会社更生法に相当する、「米国(のチャプター11)では、お金のやり取りがメインであり雇用のことはテーマに上らないが、日本では雇用も気にかけなければならないという制限のあることは米国より良い」、とかつてチャプター11を経験したSpansion社のCEOであるJohn Kispert氏は10日ほど前に語った。「Spansionではファンダメンタルな問題として40億ドルを支払うか、工場を売却するかを迫られたため、会津などのファブ(110nmプロセス工場と技術的に遅れていた)を中国などへ売却した」と言う。
マイクロンは、DRAMでは世界4位、NANDフラッシュでは同3位というメモリメーカーである。当初DRAM専業メーカーとして出発したが、時代の大きな流れを読むことに長けている同社は、フラッシュメモリも製品のポートフォリオに含め、一時はCMOSイメージセンサも手掛けた。CMOSセンサは現在、Aptina社にスピンオフさせてマイクロンの手を離れている。その結果、いまは、DRAM、NANDフラッシュ、NORフラッシュに加え、SSDやメモリモジュール、ハイブリッドメモリキューブ(HMC)、相変化メモリなどの製品やMCP(マルチチップパッケージ)設計サービスも手掛けており、メモリ以外ではFLCOS(Ferroelectric liquid crystal on silicon)ディスプレイを製品化している。
なぜマイクロンはエルピーダを欲しがったのか。DRAMの市場はパソコンあるいは、それ以上のハイエンド分野にある。モバイル応用では1機種にせいぜい1~2個しか使わないが、コンピュータ分野ではパソコンで4個または8個/9個、サーバーでは数十個、スーパーコンとなると数百個以上使う。それもバンド幅を広くするという応用である。マイクロンのHMCはTSV(through silicon via)を使ってDRAMを縦に3次元で積層したもので、広いバンド幅を実現するために使われる。マイクロンは、DRAMの設計・製造から応用までの幅広い市場を見ているからこそ、DRAMを単なるコモディティの汎用製品だけではなく、カスタマイズ市場としての設計・製造サービスまで幅広いビジネスを展開している。コストをかけずにDRAMの生産能力を上げるに当たって、自社のDRAM能力を増やさずにエルピーダの買収を選択したのではないだろうか。
また、マイクロンのDRAM製品ポートフォリオを見ていると、同社には秋田エルピーダメモリも魅力的に映るだろう。ここには、HMCやMCPなどのサービスを提供するための、優れたパッケージング技術や、それを支えるエンジニアがいるからだ。
図 マイクロンのFLCOSを使いコントローラを開発したIntersilのピコプロジェクタ開発キット
FLCOSディスプレイは、今後のモバイル市場で活躍できるピコプロジェクタ(スマートフォンと一体化する携帯型プロジェクタ)が主たる用途となる。これは、強誘電性液晶を使った反射型の液晶ディスプレイで、従来のLCOSディスプレイよりも応答速度が100倍速いという。このためRGBのLCDスクリーンを時分割で駆動させカラーを表現する。グレースケール(中間調)も表現でき各色8ビットの256段階の色調で、60フレーム/秒で動作させることができる。ピコプロジェクタ応用ではなんといっても低消費電力であることが必須である。FLCOSディスプレイの消費電力はSVGA(800×600)で100mWと低い。
マイクロンは製品ポートフォリオを増やして、DRAMビジネスだけのリスクを減らしてきた。さらにFLCOSなどこれからの成長分野にも投資してきた。ドリーマー(夢を語る人)と、ビジョナリー(ビジョンを作り語る人)、サイエンティスト(新しい技術を生み出す科学者)がメモリや半導体のイノベーションを再定義する、と同社のビデオの中で述べている。
エルピーダメモリは、マイクロンのDRAM部門としてこれから生きていくのだろうが、シェアを伸ばすことにこだわるのではなく、確実に利益を出して事業を継続していくことにこだわってほしいと願う。