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シャープに10%弱を出資、筆頭株主になる台湾の鴻海精密

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先週は、またも業界再編のニュースが新聞紙上をにぎわした。今度はシャープである。EMS(契約ベースの製造専門メーカー)トップの鴻海精密工業(中国生産会社フォックスコン)がシャープに出資し筆頭株主になる。シャープが27日にプレスリリースと共に発表した。

27日のプレスリリースによると、5月末から2013年3月までに実施する第三者割当増資を鴻海グループ4社が引き受ける。鴻海精密は、傘下に液晶パネルメーカー奇美電子をおさめ、昨年は日立ディスプレイズにも出資交渉をしていた。今回、シャープからの液晶パネル部品も押さえたことで、EMSとしての地位を堅固にしようというもの。シャープのプレスリリースによると、鴻海はシャープの液晶生産会社であるシャープディスプレイプロダクト(SDP)が生産するモジュールの50%を最終的に引き取るとしている。SDPには現在シャープ(93%)の他にソニーも7%出資しているが、提携後は鴻海グループが46.5%、シャープ46.5%、ソニー7%となる。シャープ全体では、現在の持ち株、11億1069万9887株に、鴻海の1億2164万9000株が加わり、増資後には12億3234万8887株になる。増資額は669億695万円。

さらにソニーはこの7%分についてソニーとシャープの両社が9月末を期限として検討することを、28日に発表している。ソニーがその前提としてSDPには追加出資しないことも両社の間で合意している。翌日の日経は、ソニーの7%分をシャープに売却する公算が大きいとみている。ソニーは自社の液晶テレビ向けパネルの安定供給を目的に7%分100億円を出資した。世界的な液晶パネル価格の下落を背景に、今回のシャープ、ソニーが戦略を見直した。

鴻海は台湾の黒子ビジネスの典型例であり、EMSに集中してきた。PCメーカーのエイサーはかつて米国PCメーカーのOEM生産をしており、TSMCは半導体の製造請負サービスをしている。EMSはセットの製造サービスビジネスであり、ブランド名を出さない黒子ビジネスである。最近は特にアップルのiPhoneやiPadの生産で有名になってきたが、ソニーや任天堂もEMSとして利用している。鴻海がシャープに出資するのは、アップル向けの液晶パネルを確保したいため。子会社の奇美電子だけでは生産が間に合わないと読んでいるはずだ。

もともと鴻海はパソコン向けのコネクタやケーブル、キーボードなどプラスチック部品を生産してきた。1990年代中ごろに中国広東省深せんに工場を作っていた鴻海を筆者も取材したことがある。パッシブ部品生産を得意としており、当時はアップルからも受注できたと喜んでいたことを思い出す。IBM PC互換機だけではなく、アップルのパソコンMac向けの部品も生産していたことにより、鴻海はアップルの成長と共にEMSへのビジネスモデルへと変えてきた。2003年のElectronic Business誌において、EMSの大手がフレクストロニクスやセレスティカの時代だった時に、鴻海の社員一人当たりの売上が2億円以上と超優良企業だったことにショックを受け、それ以来鴻海を注目してきた。

最近は中国工場において相次ぐ自殺者や爆発事故などのトラブルが出ていた。このため、鴻海の中国子会社フォックスコンとアップルとの間で、従業員の待遇を改善することで合意したと、4月2日の日経産業新聞が報じている。アップルはiPhone やiPadを1日に数100万台も作っており、フォックスコンの生産性の高さや機動力を評価しているという。

今回のシャープへの出資に関して、米国のウォールストリートジャーナル電子版(参考資料1)は、シャープはアップルのライバルに当たるため、アップルは今回の提携に不満を抱いていると、伝えている。一方、29日の日経は、東京工業大学の細野秀雄教授が開発、シャープが試作生産を受け持つ透明なアモーファス酸化物半導体の一つIGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛の酸化物)を鴻海が欲しいのではないか、と見ているが、これは当たらない。というのは、サムスンはこの酸化物半導体技術を、東工大の特許を管理するJST(科学技術振興機構)からライセンス供与を受けたという実績がある(参考資料2)。この技術を欲しいのであればJSTを通してライセンスを受けられるからだ。

この酸化物半導体は4元系の化合物半導体であり、大面積に渡って均一に作ることは極めて難しい。元素の性質が違うもの同士のストイキオメトリを均一に制御する生産技術は実はまだ確立していない。トランジスタの特性が大きくばらついてしまうと歩留まりが下がり予定通りの数量を生産できなくなる。アモーファスシリコンはなんといっても1元素であることが、大面積均一性に関しては圧倒的に有利である。現実にシャープのIGZOトランジスタ搭載液晶の量産は予定よりも遅れている。アップルの新型iPadに採用が見送られた(参考資料3)。

参考資料
1. Foxconn Buys Into Sharp, The Wall Street Journal, Asia Technology
2. 高性能の薄膜トランジスターに関する特許のライセンス契約をサムスン電子と締結
3. Follow-up: Will alliance with Hon Hai Group be magic bullet for Sharp?, Semiconportal, Emerging Tech from Japan

(2012/04/02)

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