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震災からの教訓を生かす半導体産業界、モノづくり産業

昨日、3月11日は東日本大震災に見舞われて1年経った日に当たる。そのせいか、先週は災害対策、電力供給など震災に絡んだテーマを議論した記事が多かった。米国で発表された新しいiPadの発表ニュースは霞んでしまった。

3月10日、11日のテレビ放送は、震災一色だった。日本経済新聞や日経産業新聞、日刊工業新聞も震災に関するテーマが数多く見られた。地震や津波による被害は、建物や製造装置が直接破壊されるだけではなく、たとえ破壊されなくても電力供給が止まったり、サプライチェーンが寸断されてモノを製造できなくなったりする「機会損失」も大きかった。3.11は福島第一原発の停止・放射能漏れの影響により電力とロジスティックも寸断された。

震災からの教訓を生かした動きが活発になっている。8日の日経によると、コマツは電力会社からの電力購入を3年後に半減させる。そのために主力工場には自家発電設備や省エネ設備を導入し、地下水による空調システムを夏場の冷房に用いる。日産自動車は東電・東北電力管内の全事業所にエネルギーマネジメントシステム(スマートメータを含む)を導入して省エネを実現していく。トヨタ自動車の子会社、セントラル自動車の宮城工場では7800kWの自家発電設備を導入した。

工場やビル向けなどの蓄電池の改良も進んでいる。ベンチャー企業のエジソンパワーは14kWの非常用電源として使うリチウムイオン電池の販売を始めた。自動車用のリチウムイオン電池で使われている充電制御用IC(電池セル1個1個を満充電にする)を用い、蓄電容量を10%増やした。500~600万円の価格で、初年度50台の販売を見込んでいる。

民生用ではパナソニックがリチウムイオン蓄電池と太陽電池をセットにした「パワーステーション」を200万円以下で販売する。京セラはニチコン製の蓄電池ユニットを販売する。積水ハウスも従来の「太陽電池と燃料電池による発電」に、蓄電池も加えた電力システムの住宅を昨年売り出している。三菱化学はアモルファス太陽電池によるフレキシブル太陽光パネルを内装建材メーカー向けに売り出す。

電源が必要なのは工場やビル、家庭だけではない。通信インフラにも電源は重要な装置だ。ソフトバンクモバイル(SBM)のコメントを引用して、震災で機能を停止した同社の基地局の内、7~8割が電力供給を絶たれていたことが原因だったと8日の日刊工業は報じている。SBMは2012年度中に全国の通信局舎に48時間無停電運転できる体制を整備する。NTTドコモは局舎以外の基地局の無停電化に注力、11年度の災害対策費用200億円のうちバッテリー増設などに130億円を投入したという。この結果、2月末時点で1000局が24時間自立運転可能になった。

ルネサスエレクトロニクスは、強いサプライチェーンを構築するため、マイコンの仕様を共通化し、他の工場でも代替生産できる体制を目指している。これは3月10日の日経新聞が報じた記事。ルネサスのマイコンは旧ルネサステクノロジのSH系、RX系、旧NECエレクトロニクス系のV850系とアーキテクチャだけでも数種類ある。全く違うアーキテクチャを共通化することはできないはずだ。これらの内、どれをどのように共通化するのかについて新聞では述べられていない。

前向きにグローバル化を進めてきた東京エレクトロンの竹中博司社長とのインタビュー記事が11日の日経に掲載された。これは宮城県に開発・製造拠点を稼働させた同社の方針を尋ねた記事だ。これによると、他社と違う製品を開発し技術をブラックボックス化できるかが勝負だと述べている。日本には優秀なサプライチェーンがありモノ作りに適しており、海外売り上げが80%を超える同社が世界で勝つことが日本の半導体産業を守ることにつながるという。宮城県では技術開発の大学、優秀な部材メーカー、招致活動に積極的な県、と産官学の連携がとれており、海外企業が「東北詣で」をしているそうだ。このモデルが一つの成功例として日本の指針になってほしい。

最後にアップル社の新型iPadにも触れる。これは3月16日に発売されると発表されたが、iPad3ではなかったため、株式市場は一時、マイナスの評価をした。ただし、ディスプレイの解像度が2048×1536画素と、1920×1080画素のフルHDと比べても100万画素も多く、そのために新しいモバイルプロセッサA5Xを開発した。デュアルコアのCPUとクアッドのグラフィックスコアを集積している。Wi-Fi対応は言うまでもないが、700MHz/2100MHzのLTEに対応しているだけではなく、HSPAやHSPA+、GSMなどの下位互換性もあるとしており、複数のベースバンド・RF回路あるいはソフトウエア無線ベースバンドを内蔵しているようだ。消費者の視点では、サクサク動くiPadとなっている。iPadは世界のタブレット市場をけん引し、タブレット市場全体は2012年に1億台市場に成長すると見られている。

(2012/03/12)
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