セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

エレクトロニクス企業各社トップの年頭語録をレビューする

|

先週は、正月三が日が明け経済界の賀詞交歓会があり、社長の意気込みが伝えられた。1月6日の日刊工業新聞は、18社のトップ経営者の念頭語録を揃えている。それを紹介しながら、ニュースをいくつか拾ってみる。まず経済産業省が電力の送発電分離を検討したというニュース、DRAM不調に奮闘するエルピーダなどが注目に値する。

日刊工業の記事では、社長のメッセージが明確なものと不明確なものがある。掲載されている18社の内、明確なメッセージを発信しているのは、三菱電機の山西健一郎社長とTDKの上釜健宏社長、そして日本航空電子工業の秋山保孝社長である。山西社長は、環境先進企業になるというメッセージを発信しており、上釜社長はレアメタルに頼らない磁性体の開発を明確にしている。秋山社長はスマートグリッドを成長のけん引力とする。特に山西社長のメッセージはわかりやすい。「グローバルで豊かな社会構築に貢献する環境先進企業」としての地位を確立する、とある。環境先進をテーマに掲げることで、将来のスマートグリッドや再生可能エネルギー、電気自動車などの成長路線が目に浮かぶ。上釜社長も「得意とする磁性技術をベースに省資源に寄与する高性能磁石を業界に先駆けて開発、実用化していく」としており、TDKの方向がはっきりしている。ここにも高性能なモーターの開発に欠かせない高性能磁石は、電気自動車、インバータなどに必要なこれからの成長路線になる。レアメタルに頼ることがないため、磁石を安定にカスタマに供給できる。

その他の社長の中では、「変革」や「変化」を掲げているが、何がどう変化するのか、何をどう変革するのか、についてのメッセージがなく、これでは従業員やカスタマーの心には訴えにくい。また、変革を社員に期待するようなメッセージもあるが、これは社員に責任を押し付けているような印象を受け、社員はついていかない。社長自らどう変わるから、社員にもどう変わってほしいのか、をメッセージとして発信すべきである。

選択と集中を口にする社長もいるが、「いまさら」という感じがする。自社の強い所はより強く、弱い所は他社とコラボや買収をすることが最近のビジネス戦略の基本である。しかし、弱いところは売却あるいは事業停止してしまうだけで終わってしまう企業がこれまでは多かった。成長に向けて弱点をどう補うのか、今年はそれを明確にしなければ成長戦略は描けない。

新しいマーケットの創造になると期待されるのが、電力の送発電分離である。電力これまで東京電力や関西電力など日本全国10社の電力会社が電力市場を支配してきたが、経産省の検討は、この支配を崩しもっと市場経済によって安くしかも高品質な電力を使えるような競争社会を実現しようとするものだ。発電業者、送電業者、小売業者などをそれぞれ分離することで、それぞれの市場で競争し、安くて品質の良い電力を提供できる事業者だけが生き残れる市場を作るというわけだ。先進国で送発電を分離していない国は少ない。ただし、送電は従来の電力会社の送電網を利用するためそのリース料など、通信の自由化のように低価格化しなければ、形だけできても実質的に従来の電力会社の支配にとどまる恐れもある。送配電分離は、デジタルグリッドや次世代グリッドとしての新しいビジネスモデルを構築し、市場が活性化する期待は大きい。

エルピーダメモリに関しては、年末から年始にかけて台湾企業の買収や、東芝とのコラボのニュースがあったが、特に後者のニュースは台湾側から出てきたものらしく、ガセネタの可能性が高い。台湾企業の買収に関しては、エルピーダ自らの財務が問題となっている点を1月6日の日本経済新聞が指摘している。これまでの新聞記事によると台湾へのシフトは円高の影響を回避するためとあるが、実は台湾元も円と同様、ドルに対しては高くなっているため、円高回避には決してならない。台湾企業に期待するのは、「工業製品を世界一、安く作れる地域」としての低コスト技術である。台湾企業の低コスト技術は欧米の企業が注目しており、台湾とのコラボはまさにこの点にある。例えば、米アップルは、台湾企業の鴻海精密工業(英語名Foxconn)を利用して、iPhoneやiPadを生産している。

エルピーダは、自社の再建が最大の課題であり、資本注入の道があるが、2009年6月に受けた産業活力再生法を再度受ける必要に迫られていると日経は報じている。500億円の借入金の返済や、3月末が期限の450億円社債の償還が控えており、経済産業省との交渉が再建のカギを握るとしている。

(2012/01/10)

月別アーカイブ