Semiconductor Portal

HOME » セミコンポータルによる分析 » 週間ニュース分析

スマホ、タブレットの勢力地図をインテル、マイクロソフトが大きく変えた

携帯電話、スマートフォン、PCなどIT業界の勢力地図が塗り替わりそうだ。9月13日にインテルはIDF(Intel Developer Forum)、マイクロソフトはMicrosoft BUILD Conferenceというそれぞれのプライベート会議を開催、インテルのAtomはグーグルのアンドロイドに対応すると発表、マイクロソフトはタブレット用Windows 8を発表した。

これまでパソコン分野で、ウィンテルと呼ばれた両社の蜜月はもはや終わった。スマホやタブレットなど携帯機器を対象とするバトルへと変わってきた。インテルのプロセッサチップAtomがアンドロイドOSをサポートするようにグーグルが最適化する、と日経産業新聞が9月15日に報じている。インテルは、ノキアと提携しMeegoベースのスマホ市場を狙ったものの、提携がとん挫してしまった。

マイクロソフトもインテル同様、パソコン市場に特化してきたメーカーであるが、先週の会議でタブレット用のOS Windows 8を発表した。タッチパネル操作が可能なOSであり、タブレット市場で圧倒的なシェアを誇るアップルのiPadに対抗する。15日の日本経済新聞によると、Windows 8はNvidiaやクアルコム、テキサス・インスツルメンツのアプリケーションプロセッサでも動作する設計だという。もともとARMと提携し、最初にタブレット用OSをARMベースの試作タブレットに載せた。CPUに依存しないということは、海外のブログなどによるとどうやら仮想化技術を使っており、Windows 7で動作するPCにもインストールできるようだ。

タブレットメーカーは、Windows 8についてライセンスを受けタブレットにインストールする訳だから、その分タブレットの価格は高くなるという欠点はある。アンドロイドはグーグルが無料で提供しているプラットフォームであるから、組み込み技術に手なれたメーカーであれば無料のアンドロイドで設計する方が原理的には安いコストで製造できる。タブレットの画期的なユーザーインターフェースを発明したアップルにアンドロイドはまだ苦戦しているが、Windows 8はどう攻略するか、その戦略はまだ明らかではない。

マイクロソフトの発表と同時に、クアルコムがWindows 8ベースのパソコン向けに、同社のアプリケーションプロセッサであるSnapdragonを提供することを発表した。クアルコムは、Windows 8パソコンを3GとLTEへ常時接続するためのM2M通信モジュールGobiも、パソコンメーカーに提供する。これによりネットと常時接続するWindows 8ベースのパソコンが第1世代パソコンから載るようになる。クアルコムが買収したアセロスの、Wi-Fi回路とBluetooth、FMとのコンボチップWCN3660もパソコン市場に提供する、としており、モバイルパソコンの利便性はかなり高まる。ウルトラブックは、Atom+アンドロイドと、Snapdragon+Windows 8という組み合わせがまず現れる。

クアルコムは3G通信技術であるCDMAの基本特許を抑えているため、携帯電話・スマホ・タブレットメーカーはクアルコムのチップを使うか、ライセンス料を支払わなければならない。これを嫌い、NTTドコモと富士通、サムスン電子が合弁会社を作ることが13日の日経新聞で報じられた。NECやパナソニックモバイルコミュニケーションズも出資する見通しだという。この新会社は、クアルコムに対抗する通信用のファブレス半導体になる。これからのことだからおそらくLTE技術かLTE-Advanced技術なのだろうが、いずれも手ごわい競争相手が世界中に控えている。

タブレットやスマホのビジネスは動きが極めて速い。シャープは発表してまだ1年もしないうちに、タブレット端末「ガラパゴス」の直販を終了した。通信業者(キャリヤ)のイー・アクセスを通じて供給し、OSも従来の独自からアンドロイドに変更したという。海外ではスマホや携帯電話、パソコンなどの民生機器はもはや日本ブランドの面影はなく、サムスンやLGのブランド力の方が高いと言われるようになってきた。日本の独自OSやブランドはもはや通用しないことを念頭に置いたビジネス戦略が求められる。例えば台湾はブランド力がないものの、EMSやODM、ファウンドリ、デザインハウスなど製造、設計のサービスを提供するというB2Bに徹したビジネスで稼いでいる。三洋電機が好調だった時もODMやB2Bで大きな利益を上げていた。

グローバルな開発力を積極的に利用する日本企業も現れた。トヨタ自動車は米MITなど6つの大学や研究機関と、自動車の安全性能を上げる技術を共同で開発すると発表した。昨年起きたリコール問題を受け、合計5000万ドルを投入し、米国の大学と共同開発するという道を選んだ。米国の大学や企業との共同開発には、一般ユーザーからの批判を和らげるという効果もある。

先週は、エルピーダメモリがDRAM生産能力の4割を日本から台湾へ移すことを発表した。国内の広島工場は、最新製品や製造技術の開発、生産のマザー工場の役割を担うとしている。DRAMに特化してきたエルピーダは、DRAMをたくさん使うパソコンの成長鈍化を受け、経営環境が厳しくなっている。さらに円高が長引き、今回の台湾へのシフトを決めた。だからと言って、昨今の為替は円だけが高い訳ではない。台湾元も米ドルに対しては昨年上半期同士で比較すると12〜13%高くなっており、日本の円とそれほど大きな差はない。現に、TSMCは台湾元高によってドルベースでの業績を落としている。詳細に見てみると日本円は、上半期だと台湾元とほぼ同様な数値だが、この7月末以降は17〜18%も2010年上半期から高くなっている。米ドルに対して台湾元も高いが、少しでも為替レートの影響を避けようということがエルピーダの狙いだといえる。

(2011/09/20)
ご意見・ご感想