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大震災からちょうど半年、米国の同時多発テロから10年の9月11日

9月11日は3月11日の東日本大震災から半年を過ぎた節目に当たり、米国で起きた同時多発テロから10年目の日でもあった。このせいか、テレビや新聞ではこの二つの大きな事件を災害という視点から見た報道が多かった。この日の発行を狙い、先週のニュースは震災から半年という切り口の解説記事が多かった。

この半年間で半導体産業に最も大きな影響を与えたのがルネサスエレクトロニクスの那珂工場の被災だっただろう。11日の日本経済新聞には、ルネサス那珂工場長、青柳隆氏へのインタビュー記事があり、当時の回想録として採り上げている。同氏は当初は復旧に9ヵ月程度かかると思ったそうだが、従業員やユーザー企業などからの復旧に対する強い思いと支援によって、震災から1カ月半で試験生産にこぎ着けたとしている。

今回の震災からの教訓はやはり二つ。一つはサプライチェーンの強化。もう一つは電力網の整備への認識だ。サプライチェーンに関しては材料工場から流通、製造設備、工場の生産体制、OEM企業への供給など、全ての工程に渡って見直しが必要であること、またサプライチェーンのボトルネックの強化などがこの半年間で指摘された。電力網の整備に関しては、やはりスマートグリッドといった次世代の賢い電力網を早く整備する方向へ向かっていることが新聞でも議論されるようになった。セミコンポータルはいち早く、7月13日にSPIフォーラムを開いて議論した(参考資料1)。

新しい電力網の形成には、単なるスマートメーターだけではなく(スマートメーターはシステムから見ると単なるセンサ)、ソーラーや風力などの再生可能エネルギー、蓄電池なども必要となり、それらを結んだネットワークを制御するための装置や半導体チップも不可欠となる。まず手始めにソーラーパネルやソーラーセルの市場だが、昭和シェル石油の子会社であるソーラーフロンティアは、2012年後半をメドにCIS薄膜太陽電池の商用生産を始めると9月9日の日経が報じた。

CIS系太陽電池はIn、Cu、Ga、Seを混ぜた薄膜の化合物半導体であり、効率がシリコン結晶並みに17〜18%と高いのが特長で、蒸着やCVD法などを使って形成する。結晶シリコンの価格に左右されないと記述されているが、4つの材料の価格に左右されることはシリコンと同じ。加えてInとGaはレアメタルに分類されるようになり、その入手性はむしろ今後シリコン以上に難しくなる恐れがある。この4元系材料の組成(ストイキオメトリ)を大面積に渡ってしかも均一に形成することは難しい。小さな面積で効率が高くても大面積で形成すると大きく下がってくる。技術的には均一性をどう確保できるかが大きな問題である。

蓄電池を長期的なスマートグリッドではなく、一時的な停電対策のために使う応用も出てきた。9月7日付けの日刊工業新聞によると、ソニーエナジーデバイスは2012〜2013年に市場へ投入する予定だった家庭用蓄電池を10月に発売する。パナソニックも傘下の三洋電機が数年前に商品化した携帯型蓄電池を改良して8月末に投入した。家庭用の蓄電池は2〜3時間の停電に備える緊急時向け。停電時の情報収集に必要なテレビやラジオ、スマートフォンなどの電力供給を想定しているという。

9月7日の日経産業新聞が掲載したルネサスへのインタビュー記事は、モータ制御インバータ用の半導体ソリューションを提供するという意欲的な取り組みを伝えている。インバータはエアコンや冷蔵庫のコンプレッサを回すモータの制御に使われており、日本のエアコンなどが断トツの地位を占める。インバータは、モータをオンオフせず回転数を無段階で変えることができる。クルマでいえば急発進、急ブレーキをかけず、経済速度(堕性)で走るようなもの。このため、消費電力をぐんと減らすことができる。海外では電力料金を気にすることがなかったため、これまでインバータモータは普及してこなかったが、最近のグリーン化、省エネ化によってインバータの採用が増えていくと見られている。

ルネサスはパワーMOSFETだけではなく、ドライバやマイコン、アナログなどインバータに必要な半導体をまとめてソリューションとして提供していく、と意欲的だ。この分野のシステムに関する知識をルネサスは持っているため、海外のOEMメーカーにとってソリューション提案はターンキーソリューションとして提供してもらえるというメリットがある。インバータは電気自動車にも使う技術であり、今後も成長していく分野である。


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1. SPIフォーラム:災害に強い電力網を目指して−次世代グリッドの早期実現へ

(2011/09/12)
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