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液晶パネルで東芝・日立・ソニーの3社連合成立の陰にアップルvsサムスンあり

先週は、中小型液晶パネルで東芝と日立、ソニーがようやく事業統合を決断したという発表があった。日本経済新聞はその一報を8月30日の夕刊で伝えてから、9月2日(金)、3日(土)、4日(日)と立て続けに解説記事を掲載した。

2日の見出しは「ガラス細工の起死回生策 揺れた日立、東芝と溝」、3日は「革新機構、産業再生のひな型に 消耗戦防ぎ競争力」である。政府が920億円、民間19社が100億円を出資してできた産業革新機構が、3社連合に2000億円という巨額を出資、東芝と日立製作所、ソニーがそれぞれ100億円を出資する。

3社連合の話は昨年2月ごろからずっと出ていた。その間、東芝はアップルから数1000億円を出資してもらい新工場建設という提案を受け検討した結果、アップルに頼り過ぎることは危険、との判断が働いたという。日立は台湾の鴻海精密工業への技術供与を検討してきたが両社の交渉が決裂したことで、この3社連合プロジェクトに近づいてきたと報じられた。

もともとアップルは、サムスンから液晶パネルを大量に購入してきたが、サムスンがアンドロイドフォンを出してきてから、それも1年に数機種も同時に開発、発表するという驚異的なスピードでスマートフォンを発売してきてから、アップルとの溝が深まってきた。アップルは、iPhone、iPadとも丁寧に設計・企画を練り込み、1〜2年に1機種を出してきただけに、サムスンの破天荒な製品リリースはアップルにとって脅威に写った。しかも深い要因は、無料のアンドロイドOSを提供したグーグルにある。アップルはグーグルを直接叩くことはせず、遠まわしにアンドロイドフォンメーカーを訴え続けている。グーグルがモトローラモビリティを買収したのは、アップルだけではなくマイクロソフトからも身を守るためである。このような事情からスマホやタブレットの心臓部分となるアプリケーションプロセッサの設計をサムスンから採り上げ、A5は自主開発となった。

一方でサムスンは、メモリーからファウンドリビジネスへ投資の重点を移しており、韓国工場への投資を減らす一方で、ファウンドリの拠点となる米国テキサス州のオースチン工場への投資は増やし続けている。アップルのアプリケーションプロセッサA5は今のところ、オースチンで製造しているようだが、サムスンとのバトルがさらに激しくなれば、アップルはTSMCやグローバルファウンドリーズへ鞍替えする可能性もある。日本には先端プロセスを使うファウンドリ企業がないため、その選択肢には全く入らない。

サムスンとの仲が険悪となったアップルは液晶パネルの製造を日本のメーカーに打診してきた。日経の解説によると、日立はIPS技術を数1000億円という破格の値段でも売ることを拒否し、続いて相談された東芝はアップルだけに頼ることは危険との判断があったとしている。日立の判断には、政府(経産省)が関与し技術の流出に懸念を示したとされている。東芝の判断は、サムスンとアップルとのバトルを理解していれば、間違いではないかと思える。というのは、東芝はNANDフラッシュを四日市工場にメガファブとして集中させているが、この方がよほど危険が大きいからだ。万が一、東日本大震災並みの災害が起きると生産額だけではなく補償額、回復修理、立て直し、継続性なども含め、1兆円以上の損失が出ることは間違いないだろう。

東芝はアップルとの出資を通して、工場を新設し、その間、欧州企業へも売り込める体制を整えていけるように交渉しておけば、1社に頼る危険は薄まる。アップルから突然切られるにはそれなりの理由があり、それを探るためのマーケティング部隊を設けておくことはビジネスの常道であろう。というのは、3社連合の成否は危うく、ともすれば危険性はもっと高いかもしれないからだ。

液晶とよく似た産業である、メモリービジネスでも連合(エルピーダ)によって坂本社長が来る前まではつぶれる寸前まで落ちぶれていた。メモリーも液晶も別名、ラバースタンピングインダストリ(Rubber stamping industry)と呼ばれている。1つのメモリーセル、あるいは画素をきちんと設計さえすれば、あとは同じセルを並べて配置するゴム印のような技術だからである。デコーダやドライバなどを含めても技術のバリヤは低く、産業インフラさえ整えば韓国や台湾があっという間に追いつき追い抜ける産業だ。特に低コスト技術開発の名人である台湾企業がアップルの要請を受け生産拡充すれば、3社連合は飲み込まれてしまう恐れがある。ここに産業革新機構が2000億円という巨額を投資する理由がよくわからない。技術の目利きが一人もいないこの政府系ファンドが失敗した時の後始末は結局、税金になる。革新機構への政府保証額の枠は8000億円もあるからだ。

(2011/09/05)
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