ジョブスの辞任は今後のグーグルとの対決にどのような影響を及ぼすか
先週もビッグニュースが飛び交った。アップル社のCEO、スティーブ・ジョブス氏がCEOを辞任した、と8月25日の日本経済新聞の夕刊が伝えた。アップルは米国時間24日にプレスリリース(参考資料1)を流すと同時にスティーブ・ジョブス氏の手紙(参考資料2)も公開した。後任のCEOにはティム・クック(Tim Cook)氏が就任すると同時に、彼は取締役会にも入る。
スティーブ・ジョブス氏はここ数年、病気療養中であり、新製品発表会に登場する時はやせ細っていた姿が痛々しかった。2004年8月にすい臓がんで手術を受け、その後肝臓移植も行い、病魔に苦しめられてきた。それでも新製品発表会の時は自らプレゼンを行い、その表現の仕方だけで本になるほど人の心をつかむ演出が上手だった。
アップルの唯一の課題はポスト・ジョブスと言われてきた。ジョブス氏のカリスマ性が余りにも強かったためにCOO(最高業務責任者)にいたティムの存在は目立っていなかった。アップルが公開したジョブス氏の手紙「Letter from Steve Jobs」(参考資料1)によると、後継者としてティムを強く推す、と述べている。アップルのCEOを辞任したからといってアップルを去る訳ではない。その手紙の中で、「新しい役割をもってアップルの成功を見守り、そして貢献できることを期待している」と述べている。この役割とは取締役会長である。同日のプレスリリースには、取締役会の会長に選ばれた、と述べられている。
スティーブ・ジョブス氏は、同じ名前を持つスティーブ・ウォズニアック氏らと共に文字通りガレージでパソコン「マッキントッシュ」を開発し、アップルコンピュータ社を設立した。技術のスペシャリストであるウォズ(ウォズの魔法使いを文字ってこう呼ばれていた)と、金儲けのスペシャリストであるジョブス氏との名コンビがアップルを成功に導いたと言われている。
マックコンピュータの原点は、シリコンバレーの一角、パロアルトにあったゼロックス社の研究所(PARC:Palo Alto Research Center)を見学した際に見た、アラン・ケイ博士が発明したパソコンの概念「Dynabook」だったと言われている。アラン・ケイ博士はマウスを発明し、スクリーン上のプルダウンメニューを発明、さらに現在のノートパソコンの原型をイメージできた天才である。彼のアイデアを具現化したのがスティーブ・ウォズニアック氏だった。
ジョブス氏は一時、アップル社を追われ、ピクサーアニメーションスタジオやNeXTコンピュータを設立したが、ジョブス氏のいないアップルは業績が低迷し続け、1996年についに同氏をアップルに呼び戻すことになった。ジョブス氏が来てからのアップル社は、マックだけではなく、iPodを開発、iTunesという音楽配信サービスのビジネスモデルを考案、さらにiPhoneによるイノベーティブなタッチパネルのユーザーインターフェースを実現、iPadという新しいジャンルのコンピュータを切り開いた。
ここへきて、ではポスト・ジョブスは誰になるのか、という問題になったが、COOとして訓練を積んできたティムがCEOに付いたことはむしろ順当かもしれない。ビル・ゲイツ氏後のスティーブ・バルマー氏と似た問題ともとれる。
アップルの問題は、実は後継者だけではない。グーグルとの戦いも問題になりつつある。グーグルの取締役会メンバーを見るとその状況が垣間見える。ジョブス氏がかつて経営したピクサー社ゆかりの取締役アン・メイザー氏、インテルCEOのポール・オッテリーニ氏、スタンフォード大学学長でRISCアーキテクチャを発明したジョン・ヘネシー氏などがいる。彼らはアップルとは敵対関係になることを望んでいない。ある時まではアップルとグーグルの関係は非常に良かった。
しかし、グーグルがAndroidを提案した時からアップルにとってグーグルが目の上のたんこぶになってきた。このため、アップルはグーグルに対して直接的な攻撃はしていないが、HTCやサムスン、モトローラ、LGなどアンドロイドフォンメーカーを特許を盾に訴訟している。グーグルが最近、モトローラを買収したのは特許を増強し、アップルやマイクロソフトなどから身を守るためであり、今年の1月にも倒産したカナダのノーテルから6000件の特許を競売で買うという提案もしている。この競売の相手はアップルである。
参考資料
1. Steve Jobs Resigns as CEO of Apple (2011/08/24)
2. Letter from Steve Jobs (2011/08/24)
3. グーグルのモトローラ買収劇の真相を探る、電話会見・グーグルブログから (2011/08/22)