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ルネサスがパワーアンプ事業をムラタに譲渡、ソリューション事業へ脱皮急げ

7月29日の日本経済新聞は、ルネサスエレクトロニクスが村田製作所に音声処理用半導体を事業売却する、と報じた。音声処理用半導体とは何だろうかと思っている内に、ルネサスが同日ニュースリリースを流し、パワーアンプ事業と子会社であるルネサス東日本セミコンダクタの長野デバイス本部の事業をムラタに譲渡することで基本合意した、と発表した。

このプレスリリースを元に、ムラタ側の視点で日経産業新聞が書いた記事が8月1日に掲載された。ルネサスは不採算部門を切り売りするというリストラを進めているが、この事業売却もその一環である。一方、ムラタのような部品メーカーは半導体の高集積化が進めば受動部品の存在感が弱まるという昔からの危機感からソリューション提供を進めてきた。このためムラタは、ソリューション提案というビジネスを確立してきている。スマートグリッドや電気自動車、再生可能エネルギーといった将来志向のビジネスで何をどうソリューションとして売っていくかを熟知している。

今回、ルネサスのパワーアンプ部門の買収は、これまでムラタが強かった無線回路の受信部だけではなく送信部も手に入れることができるというもの。無線回路は、3G、HSPA、LTE、LTE-Advanced (4G)へと続く通信ネットワークだけではなく、WiFi、WiMAX、RFID、デジタル放送などありとあらゆる無線アプリケーションに入り込んでいる。これからもますます入り込む。このための通信モジュール技術を手に入れられるなら、さまざまなワイヤレス市場に食い込め、ビジネスチャンスを広げていくことを意味する。ベースバンド部分は復変調方式によって変わってくるため、OFDMやCDMA、マルチキャリヤ、マルチバンド方式などそれぞれ異なる技術が求められるが、RF回路は送受信を押えておけば、フィルタ技術がキモとなるが豊富なアプリケーションが待っている。

逆に言えば、ルネサスはソリューションビジネスへの転換が遅れており、パワーアンプ技術を生かしきれないビジネススタイルだったといえよう。この従来型のものづくりビジネスのやり方を続ける限り、ルネサスの未来は厳しい。一刻も早く成長するためのソリューションビジネスに切り替え、そのための未来に目を据えたビジネス戦略に転換してくれることを願う。未来には、次世代グリッド、再生可能エネルギー、電気自動車など大きな市場が控えている。

次世代グリッドに関して7月27日の日経は、政府が電力需要をリアルタイムで検出できるスマートメーターの導入を検討していることを伝えた。一般家庭にスマートメーターを設置し、5年以内に電力の総需要の8割を把握できるようにするのが狙い。ただし、具体的なスケジュールや方式、技術(ハード、ソフト共)、等のイメージは報じられていない。今その詰めの作業を行っており8月上旬に発表するとしている。

一方の欧州では海を越えて電力を融通し合う仕組み作りを急いでいる。4月には英国とオランダとの間に海底ケーブルを敷設、英国と大陸間で大量の電力を融通し合えるシステムを構築した。欧州では国境を越えた送電網を作り、同じ周波数で電力を融通し合うネットワークの構築を急いでいる様子を7月27日の日経が報じている。発電・送電を切り離した電力の自由化が2007年から始まり電力を使う消費者が安い電力会社を選べるようになったことについても述べている。

欧州の3大半導体メーカーの一つ、ドイツのインフィニオンテクノロジーズがパワー半導体の日本市場を拡充するため、富士エレクトロニクスと販売代理店契約を結んだと7月28日の日経産業が報じた。この記事では、インフィニオンが得意なIGBTやパワーMOSFET、パワーモジュールで日本市場を拡大することを述べ、対する三菱電機はSiCの製品化計画で迎え撃つようなトーンで描かれている。

しかし、インフィニオンが今年の後半から来年初めにはSiCトランジスタを製品化することについては触れていない。同社が最初のSiCトランジスタ製品に関する記事を欧州の雑誌に掲載したが、セミコンポータルはそれを翻訳し、SiC製品の最初の記事として近いうちに掲載する予定である。

(2011/08/01)
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