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電力不足を解消するスマートグリッド、発送電分離の実現に向けた議論が活発

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先週は、ゴールデンウィークの真っただ中で、企業活動をベースにするニュースらしいニュースはほとんど出てこなかった。日本経済新聞や日刊工業新聞は、東日本大震災によって遮断された半導体部品のサプライチェーンに関する解説などの記事が多かった。

特にマイコンの供給不足によりルネサスエレクトロニクスが注目された。ルネサスのマイコン入手を確保するため自動車メーカーは、ルネサスの那珂工場へ1000人単位の規模の人材を送り込み、一刻も早い工場立ち上げを手伝ってきた。「ジャストイン方式で在庫を持たない自動車メーカーは『有事の際に費用がかかっても、平時から部品在庫をたくさん持つよりも効率がいい』」、というトヨタ自動車幹部の談話を5月3日の日経が載せている。もちろん、部品メーカーには在庫がある。在庫を自動車メーカーに最優先して吐き出して次の生産が間に合わなくなった。このことは、自動車メーカーだけが在庫を持たず、部品メーカーが在庫を持つという現在の主従関係が維持されていることが改めて浮き彫りになった。

ルネサスのマイコンは自動車から携帯電話機などの民生品や産業機械などにも使われているため、自動車の次にこういった分野での品不足が次にクローズアップされてくると、5月4日の日経は伝えている。これまでマイコンメーカーとしてトップクラスを歩んできたルネサスは二つの独自アーキテクチャを継続しているが、こういった有事の場合にもっと汎用的なアーキテクチャである英ARM社のCortex-Mシリーズを使ったマイコンメーカーにとって代わられる危険はある。このアーキテクチャだとA社が被災しても同じアーキテクチャのB社のマイコンに代えることが容易だからである。ユーザーから見るとセカンドソースは、品質認定に時間がかかるもののソフトウエアやバグとりなどの時間は省略できるからだ。

部品のサプライチェーンに影響を及ぼしたのは直接的な地震・津波の被害だけではない。計画停電による工場停止も産業界にとっては大きな損害である。5月5日の日経産業新聞によると計画停電は9日間述べ27回にも及んだという。病院や信号機などへの電力が停止し、社会的な混乱も広がったとする。半導体関係では、ADEKAの富士工場が計画停電により過酸化水素水を生産できなかったことは記憶に新しい。こういった計画停電を今後なくすため、二つの提案が報道されている。一つはこの日経産業が報じた、スマートグリッドなどの次世代グリッドの構築であり、もう一つは5月4日の日経が伝えた発電会社と送電会社との分離である。

スマートグリッドは、太陽光発電や風力発電など環境にやさしい発電は変動が大きいため、その変動を平滑にするため蓄電池を用い、従来の送電網からの支線によって形成する電力ネットワークである(参考資料1)。送電網への巨大な投資が必要とされ、電力会社は二の足を踏み「停電の少ない日本では必要ない」と当初は消極的だった。しかし、今回のような災害による電力供不足が起きると、さまざまな発電所(家庭やオフィスも含めて)からの電力を融通し合い電力の不足している所へ送るといったスマートグリッドの必要性が見直されてくる。

もう一つの発送電分離に関しても現在のように電力会社が発電から送電まで支配していると、今回のような災害では簡単に電力をA地点からB地点へと融通できない。日経によると、電力自由化で生まれたJX日鉱日石エネルギーのように電力を発売できても送電網を電力会社から借りる場合の利用コスト負担が重く、ビジネスにはなっていないという。発電業者と送電業者がそれぞれ複数いることで競争原理が働き、お互いに電力の売買ができ、電力消費者はそれぞれを選ぶことができる。電力会社は「電力品質が安定しない」と第3者からの買電を拒んでいると日経は報じているが、電力消費者が発電会社と送電会社を選ぶようにできれば、安定品質の電力を供給できない企業は市場原理によって淘汰されるはずである。

参考資料
1. SPIフォーラム「次世代パワーグリッド構想――スマートグリッドの真実を探る
テキスト在庫あり、お求め先は sales@semiconportal.com

(2011/05/09)

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