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自動車メーカーの生産試運転開始と、長期的なスマートグリッドの推進

先週は、東日本大震災から一刻も早く立ち直るという方策から、もっと長期的な電力供給を見据えたスマートグリッドへの展開に至る戦略までの手を打つという考えが見え始めてきた。自動車メーカーはひとまず、国内工場での生産を再開した。それも稼働率を5割程度に留め、試運転といったところだ。

4月18日の日刊工業新聞では、トヨタ自動車が5月10日から1ヵ月間、全工場で週5日、通常の5割程度の稼働率で自動車を生産すると報じたのに続き、4月19日の日本経済新聞でも、トヨタに加え、日産自動車も5割程度の生産を再開すると報じた。その前の11日にはホンダが生産を5割程度の稼働率で再開しているが、自動車大手の再開は部品供給の様子を見ながらの慣らし運転という意味になる。

自動車用のマイコンを出荷しているルネサスエレクトロニクスの那珂工場が200mmのウェーハラインで6月に生産を一部再開する見通しを発表しているが、300mmウェーハプロセスラインの稼働はその後になる見込みだ。サプライチェーンとしてさらに心配の種はシリコン結晶の供給だ。ルネサス那珂工場が稼働を再開するまでにシリコンの手配は可能なのか、シリコンの供給次第では自動車用のマイコンにも影響が及んでくる。ここ1~2週間、自動車メーカーがマイコンを確保する勢いはすさまじいと言われており、とりあえずの確保はできているとしても、その後のシリコンの入手可能性によって事態は大きく変わるかもしれないため、とりあえず自動車メーカーは様子を見ている。

ルネサス以外のマイコンメーカーである、フリースケールや富士通、東芝なども参入のチャンスではあるが、自動車メーカーの認定をとるためには時間がかかる。もちろん、認定以前のマイコン用のソフトウエアの作成にも時間がかかる。マイコンはアーキテクチャが異なれば簡単にはセカンドソースを求めることができない商品だ。プログラムとその基本がアーキテクチャごとに違ってくるからだ。だからこそ、今回のような災害が来ることに対しては半導体メーカー側にも茨城県の工場が被災するなら九州の工場を使うとか、セカンドソースのメーカーのマイコンを供給できるように同じアーキテクチャをライセンス供与するとか、インテルのようなコピーエグザクトリ戦略を採らなかった日本の半導体産業にとっては、リスクヘッジを考え直す機会かもしれない。

一方で当面の操業を念頭に入れつつも、トヨタはスマートグリッドの構築に向けマイクロソフトと提携した、と4月18日の日経産業新聞は報じた。これは、マイクロソフトのクラウドコンピューティング用プラットフォームである「Windows Azure」を使って、クラウドのデータセンターとクルマをつなぐサービス構築に向けての動きとみられる。もともとトヨタはテレマティックスサービス「G-Book」をマイクロソフトのプラットフォーム上で構築していた経緯があるため、電気モーター主体のプラグインハイブリッド車との双方向通信にマイクロソフトのシステムを利用するとした。

スマートグリッドは車との双方向通信だけではなく、これからの新しい電力網の構築についても需要が高まっている。NECはイタリアの電力大手のエネル社とスマートグリッドを共同で開発すると合意した、と4月22日の日経産業新聞は伝えている。NECは電気自動車向けに開発してきたリチウムイオン電池の技術を生かし、電力用のさらにハイパワーの蓄電システムを開発、電池技術とその制御技術を提供する。イタリアでのスマートグリッド商用サービスの提供を目指す。

最後に、東芝についての記事も多かった1週間だった。4月19日の日経新聞によると、2011年3月期は3期ぶりに黒字化を達成、NANDフラッシュメモリーが年間を通じて好調だったことが貢献したようだ。NANDフラッシュに関しては19nmプロセス製品を出荷したと東芝が4月21日に発表している。4月22日の日経産業は、チップ面積が前世代品よりも25%小さくなったと報じているため、低コストで作れる可能性がある。64Gビット製品として今年の第3四半期に量産出荷するとしている。この製品は2ビット/セル技術を使っているが、いずれ3ビット/セルへも移行する計画だ。東芝と共同でメモリーチップを生産している米サンディスクも2日前の4月19日(現地時間)に同じチップ技術について発表している。サンディスクのニュースリリースでは、「独自のプログラミングアルゴリズムとマルチレベルのデータストレージ管理スキームによるサンディスクのABL(オールビットライン)アーキテクチャにより、性能や信頼性を損なわないマルチレベルセル(MLC)・NANDフラッシュメモリチップの製造が可能です」と述べている。同じセルを何度も書き換えるのではなく、できるだけ書き換えるセルをチップ全体に分散させ、信頼性寿命を上げようという技術である。また、サムスン電子がハードディスク装置(HDD)を米シーゲート社に売却したことで、これまでの4社(日立グローバスストレージ社はウェスタンデジタルへの売却が決定)から3社(ウェスタンデジタル、シーゲート、東芝)のみになり、しかも米国2社の2強という体制ができ上がることになり、東芝の進退が問われる、と4月20日の日経産業は見ている。

(2011/04/25)
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