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震災後の半導体生産、夏場の電力不足に対応する方策が続出

先週も東日本大震災の爪痕から生産活動を始めるというニュースから、この夏の大きな電力需要に備える動きも出てきている。ただし、半導体デバイスの原材料となる結晶シリコンの生産見通しがまだはっきりしていない。特に300mmウェーハの一大生産基地である信越半導体の白河工場の状況が4月1日以来発表されていない。

エルピーダは、震災の影響が少なく、広島工場で生産を進め、一時停止していた秋田エルピーダでも生産を再開した、と3月28日に発表している。しかし、震災で大きな被害を出した信越半導体の白河工場の300mmウェーハを使っていたのはまさにエルピーダである。在庫のシリコンで当分(7月末かもしれない)は生産をできるだろうが、白河工場以外の結晶シリコンの手配を進めているという。そのメドがついたのか、あるいは8月以降についてもそれまでにはメドが付くと見ているのではないか、と業界筋は見ている。

4月7日の日刊工業新聞は電力を制御するパワー半導体の特需が生まれていると伝えている。米フェアチャイルドセミコンダクター社が4~6月分のパワー半導体の依頼を受けており、スイスのSTマイクロエレクトロニクスはマイコンとアナログICの引き合いが震災直後に増えたとしている。

半導体産業研究所は夏場の電力不足による半導体生産額への影響を試算し、7〜9月の減収額が1265億円〜1898億円になると見込んでいる、と4月6日の日本経済新聞が伝えた。

夏の大きな電力需要を危惧して、生産能力を海外に求める企業も出ている。ルネサスエレクトロニクスは、制御用のマイコンを米グローバルファウンドリーズ社のシンガポール工場に委託することを交渉している、と4月7日の日経産業新聞は伝えている。さらに、熊本の川尻工場や愛媛の西条工場などでもマイコンを一部生産する予定だとしている。東芝も痛手を被った岩手東芝エレクトロニクスの生産品目を西日本の工場へ移転する準備を進めている。マイコンは大分工場、パワー半導体は加賀東芝エレクトロニクス、ディスクリートは姫路工場に夏をめどに一部代替する計画だとしている。

ディスプレイも同様の動きをしている。中小液晶パネルの日立ディスプレイズは台湾の奇美電子(CMI)への生産委託を拡大する、と4月6日の日経新聞は伝えている。タブレット端末とスマートフォンのこれからの需要に応えるため、増産しなければならないが、夏場の電力が不足し生産できない恐れがあるためだ。

半導体やディスプレイの生産において洗浄するための薬品H2O2(過酸化水素水)の供給不足も問題となっていたが、改善する動きも見られた。4月7日の日刊工業によると、日本パーオキサイドが7日から郡山工場の生産を再開するほか、三菱ガス化学も海外から製品を輸入して4月中に供給を始める。4月8日発表のアデカのニュースリリースによると、H2O2を生産している富士工場は計画停電のため操業を見送ってきたが、コジェネレーションシステム発電設備により安定的に電力を供給できる体制が整い、試運転中だとしている。

自家発電設備に関しても引き合いが強いようだ。ただし、半導体工場用といった大型設備ではなく、夏場の中小需要向け。神戸製鋼所のスクリュー式小型蒸気発電機や地熱発電用のバイナリー発電機の納期を短縮する検討に入った、と4月7日の日刊工業は伝えている。西芝電機も計画停電や夏場の電力不足を見越して発電機の新規の引き合いが相次いでいるという。

また、新神戸電機は、計画停電中でも工場の操業が可能な2MWの大型蓄電池システムを開発した、と4月5日の日経新聞が伝えた。システム寿命は17年と長い。同社のニュースリリースによると、2009年から風力発電向けの数MWの長寿命鉛蓄電池の納入を始めており、今回開発したシステムにはこの長寿命鉛蓄電池を搭載した。同社は鉛蓄電池以外にも小型化に適した産業用リチウムイオン電池も持っている。

電力を確保するための方策として、電力会社が発電から送電網、配電に至る全てを支配する現在の仕組みを見直すべきだという意見も出ている。電力会社が作った巨大ネットワークへの依存体質から脱却すべきだという横山隆一早稲田大学教授の意見を、4月5日の日刊工業が掲載している。こういった意味でも地域ごとに電力を調整するスマートグリッドへの期待は高まっている。

トヨタとマイクロソフトとの提携もスマートグリッドに関係するソフトウエアの開発のようだ。将来、PHV(プラグインハイブリッド)やEV(電気自動車)が日本全国の家庭で普及するようになると、家庭とスマートグリッドとの接続は欠かせない。家庭でも夜間電力で充電し、クルマに乗らない時間にクルマを電池と見なすのである。それを制御するためのソフトウエアは必要であり、制御用の半導体ももちろん必要となる。場合によってはマイクロソフトの提供するソフトそのものを半導体に焼きこんでしまうという応用もありうる。

(2011/04/11)
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