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半導体工場の部分再開が進む一方で、リスク分散を真剣に考える時期にも来た

先週も依然として東日本地震の影響の報道が多い。その中で、半導体産業が着々と操業を進めているというニュースが出てきたことは心強い。一方で、素材関係は依然として動かない。大きな化学プラントが停止することで、半導体工場で使う薬品や材料、部材などのサプライチェーンが供給停止しているという事態も出てきている。

米テキサス・インスツルメンツ(TI)は、日本の美浦工場の復旧を最短でも5月からという見通しを3月14日に発表していた(参考資料1)が、復興の見通しを前倒し、一部4月中ごろから再開できる見通しになったと発表(参考資料2)し、日経産業新聞は3月31日にこの記事を掲載した。TIによると、フル生産が再開されるのは7月中ごろと見ており、フルに出荷できるのは9月になる。さらに、会津にあるTIの工場(旧スパンション)は、一部生産をすでに開始し、4月中ごろまでにはフル生産可能だとしている。

3月30日の日本経済新聞は、日本における半導体製造装置トップの東京エレクトロンが仙台にある東京エレクトロン技術研究所と、岩手県奥州市にある東京エレクトロン東北が正常操業を再開したと伝えている。東京エレクトロンのニュースリリースによると、さらに宮城県松島町にある東京エレクトロン宮城も操業を再開しているが、一部で復旧作業が必要なため装置の出荷は4月下旬から5月上旬になると見込んでいる。その一方で、東京エレクトロン山梨で代替生産することで需要に対応するとしている。ただし、宮城県大和町にある東京エレクトロン宮城はダメージが大きく、開発棟は7月、生産棟は10月をメドに稼働を始める予定だと見込んでいる。

4月1日の日刊工業新聞は、京セラ、TDK、日本電産、アルプス電気、村田製作所の電子部品主要5社は村田製作所グループの仙台工場を除く全拠点が部分操業を始めたと報じている。さらに、福島県西白河郡にある三菱ガス化学の製造子会社では、半導体パッケージ用のBT樹脂の生産を5月初旬から、震災前の需要を満たすレベルまで生産できる見込みであると3月29日のニュースリリースで述べている。

半導体関係では特にサプライチェーンのダメージが大きく、半導体LSIの基本となるシリコン結晶が大きな問題となっている。信越化学工業の白河工場は世界の20%を生産していると言われているが、いまだに生産再開のメドは立っていない。3月30日の日刊工業新聞は、信越半導体グループの他の工場から供給する準備を始めており、順次生産・供給すると伝えているが、いつ頃になるのか言及していない。また、「当面の間は、他工場での限定された生産能力に基づく生産、出荷などの対応に留まる見込み」とニュースリリース(参考資料3)で述べており、白河工場並みの生産量は確保できない模様だ。これを受けて半導体大手は信越以外の半導体メーカーにも接触し始めており(3月29日日経)、その深刻さを伺い知ることができる。

半導体の洗浄に用いる過酸化水素を生産している三菱ガス化学の鹿島工場が操業を停止していると4月1日の日経は伝えている。さらに半導体材料やエッチング材料、難燃剤を生産しているアデカの鹿島工場は電気や水などのインフラが相当なダメージを受け、回復の見通しがまだ立っていない、と3月22日にニュースリリースで発表しているが、その後の発表はまだない。

一方、半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスは、旧NECエレクトロニクスが所有していたローズビル工場をドイツのテレフンケンセミコンダクターズに5300万ドルで売却すると発表、これまで生産していた車用マイコンをテレフンケンに生産委託すると4月1日の日刊工業は伝えている。この工場売却は、ルネサスのリストラの一環であるが、工場のリスク分散という意味では米国工場を売却することが正しい選択かどうか疑問は残る。というのは、メガファブを持つTSMCでさえ、台北郊外の新竹だけではなく台中にも工場を分散している。米国企業の多くが、例えばインテルはコピーエグザクトリというように全く同じ製品を全く同じプロセスで生産する工場を各地に持っている。地震だけではなく、火災など他の災害も想定してのことだ。日本企業の多くは工場の分散をリスク分散ではなく全く別の品種を作ることで効率化を図っているとするが、コスト競争力に問題が残り、この程度の効率化よりはリスク分散の方が顧客に対する信頼という意味で競争力があるかもしれない。どちらに本当の意味で競争力があるのか結論は出せないが、今回の震災はリスク分散という視点での生産工場を見直す時期に来ていることを教えている。


参考資料
1. TIの美浦工場の被害は相当大きく、再稼働は最短でも5月になりそう (2011/03/15)
2. TI's Japan factories on track for full recovery
3. 信越ニュース「東北地方太平洋沖地震による影響について(第7報)」

(2011/04/04)
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