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進む東芝の事業再編、NANDメモリーに資源を集中するのか

本日は2010年最後のニュース解説となるので、今年の大きな出来事を振り返ってみようと思っていた矢先に、東芝が大きな決断の発表をした。まずそのニュースから触れてみたい。

日本経済新聞の12月23日付けの1面トップに「ソニー、東芝から工場買戻し」というニュースが載った後、24日に東芝はニュースリリースを流した。同じ24日の朝4:00版の日経朝刊において「東芝、サムスンと提携、先端LSI生産委託」が掲載され、同日その後、「システムLSI事業の再編について」という題のニュースリリースが発表された。

この経緯を見てみると日経だけに漏らしたリーク記事であり、その後正式発表するという昔ながらの手法を使ったもの。さて、ソニーが東芝から工場を買い戻すというニュースはソニーにとって稼ぎ頭のイメジャーをさらに強化すると思われる。ソニーはCMOSイメジャーでやや出遅れたものの、CCDで培ったノウハウを生かすことでCMOSでも巻き返していく

東芝の長崎工場は、もともとソニーの工場だった。ソニーはマルチコアプロセッサCellをSOIプロセスで生産していたが、プレイステーション3が当初期待していたほどには売れず、ソニーはその工場を東芝へ売却した。しかし東芝が手掛けていたCellはSiのバルク方式。プロセスが全く違うため、一体東芝はこんな工場を買ってどうするのだろう、と疑問視する声が半導体業界には多かった。東芝にとってもCellプロセッサそのものがあまり売れず長崎工場をどうすべきか、問題視していた。日経産業新聞が今回の買い戻しを「東芝にとって渡りに船」と同社首脳は表現したと伝えている。

長崎工場のソニーへの売却は東芝にとってリストラの一環である。翌日発表されたシステムLSIのファウンドリ委託もファブライトを推進する日本の典型的なIDMのやり方だ。すなわち先端プロセスはファウンドリに任せ、遅れたプロセスは自社で賄う、という何とも表現しがたいファブライト戦略である。ただ、システムLSIメーカーがファブライト戦略をとる場合に何を価値とするかを表明しないことは理解に苦しむが、NANDフラッシュに注力するからシステムLSIの設備投資を減らすというメモリーメーカーとしての東芝の生き方だと理解すると納得できる。

東芝はむしろ今後、NANDフラッシュのプロセス、パッケージング、カード、SSD、サブシステム、NANDフラッシュのストレージシステムなど、NANDフラッシュの全てを扱うようなビジネスを築くように持っていくことが世界で勝ち残れる道かもしれない。もし今後もシステムLSIを伸ばすつもりであれば、人とソフトウエア、得意なIPに投資すべきであり、サードパーティとのエコシステムを構築することに注力していくべきである。もちろんその前にシステムLSI製品の何に価値を置くのか、について明確にしておく必要がある。この点を明確にせず従来通りの製品を中途半端に残しておけば、かえってシステムLSI事業はさらに萎んでしまうだろう。システムLSIの価値は、人とソフトウエア、エコシステムの構築が大半を決めるため、ソフトウエアの何に価値を置くのか、そのために必要な人や相補関係を築くエコシステムをどのように築くべきか、など調査すべき課題は多い。

2010年の半導体業界にとって大きなニュースは、以下の5つを選択した。それは今後の発展、成長が期待できることを視点として選んだ。

1. iPadの衝撃とアンドロイドマシンの登場
2. メモリーメーカーが好調
3. パワーエレクトロニクスの成長分野が明確に
4. トヨタ事件の教訓と社長によるフォローアップ
5. 国内半導体メーカーの再編

iPadやアンドロイドマシンは2011年もさらに新製品が追加され、市場は倍々ゲームで伸びていきそうだ。市場調査会社やアナリストの多くは、これらのデバイスの伸びを見込んでいる。この市場では、RF、アナログ、ベースバンド、アプリケーションプロセッサ、パワーマネージメント、メモリー(RAM/ROM)、ストレージ、グラフィックスなどが大きく伸びる。これら全ての低消費電力化が求められる。性能はいくら高くても消費電力を下げなければタブレットは売れない。ローパワーを売り物にしたICは2011年も倍々ゲームで成長する。

タブレットアーキテクチャをベースにしたメモリーは2011年も伸びる。夏から秋にかけて陰りの見えてきたDRAMはタブレット仕様に変えればさらに成長できよう。

これまで地味な存在だったパワー半導体が注目されている。スマートグリッドや再生可能エネルギー分野、電気自動車など環境にやさしい分野の成長がはっきりしており、そのアクチュエータをドライブするのがパワー半導体である。ただ、忘れてならないのは、パワー半導体をドライブするアナログ半導体とシステムICである。パワー半導体を使うシステムではシステムLSIは必ず使われる。

トヨタ事件でトヨタの品質と対応が問題視されたが、その後社長が米国、欧州など主な拠点工場と顧客を回り信頼回復に大きく貢献した。社長自らが現場まで降りて説明し、顧客とも対話するというその姿勢に現地従業員のモチベーションが上がったという報道は多かった。

再編された国内半導体メーカーの実態は見えないためはっきりと明言できないが、ひたすら2011年の活躍を祈念する。

(2010/12/27)
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