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エリ・ハラリ、チューダー・ブラウン両経営者からみる半導体経営の神髄

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先週は大きなニュースがほとんどなかったが、日本経済新聞社主催の世界経営者会議のレポートにおいて半導体分野の経営者として米サンディスク社のエリ・ハラリCEOと英アーム社のチューダー・ブラウン社長の講演内容が今の時代の半導体経営の考え方を示しており、日本の半導体経営の役に立つ話が多かった。

東芝と共同でNANDフラッシュメモリのファブを持っているサンディスク社は、8年間で100億ドル(8500億円)もの資金を投じてきたが、日本にはメモリーや高い生産技術があるため、日本人の優秀な技術者を採用してきた、と述べている(日本経済新聞11月25日)。

この言葉の意味をじっくり考えてみよう。エリ・ハラリ氏は、日本人が得意とする生産技術、あるいはプロセス技術を生かすために投資した、と言っているのである。日本人が得意なのは生産技術であり、日本がそれを生かすことは当然であろう。さらに、この言葉には、その資金源を海外に求めよ、と示唆している。逆に言えば、日本人の強みを生かせるのは、ファウンドリのように生産技術に特化した半導体ビジネスであり、何でもオールジャパンではなく、出資者を海外から求めよ、ということではないか。だから、私は「一刻も早く日本はファウンドリを設立すべき」と提案した。その理由の一つは、新しいビジネスモデルを導入しているエルピーダメモリの経営手法がその通りだからである。坂本幸雄社長は、海外からの出資者を求め、さらに資本増強のためには政府だけではなく顧客からも資金提供を要請した。いわば、サンディスク、東芝の関係と同じ手法だ。

エリ・ハラリ氏はさらに述べ、「長年、日本の製造業を見てきたが、長期的な視点に立てば先端的なものづくりを国内にとどめなければいけない」と日本の特長を理解している。そして日本の強くするための施策として「ハードウエアのスペックだけではなく、機器に搭載するソフトウエアも含めた戦略が必要だ」と提案する。これまでの半導体メーカーの多くは、顧客の仕様に基づいて半導体チップを設計してきた。しかし、何をソフトで何をハードで受け持つか、何をチップ化し何を外付けするかというシステム指向の提案になっていない。システムを提案できれば、半導体メーカーは顧客の心をつかむことができ、顧客は半導体メーカーから離れられなくなる。半導体ビジネスが成功している企業は、システム提案あるいはソリューション提案の中からコアとなる半導体を設計している。

最後に同氏は、「意思決定迅速のため、現場に決定権限を与えるようにしている。社員には積極的にチャレンジして失敗してもらいたい。そして投資家はリスクを取ることを認めてほしい」としている。パナソニックが意思決定を早くするために三洋電機を買収した、と言っていることとは正反対である。可もなく不可もなく、といった伝統的な日本の官僚的組織とも正反対である。そして社員に対しても失敗を許すことで、革新的な仕事をしやすくしている。

日本には1〜2カ月に一回は出張で来ているアーム社の社長であるチューダー・ブラウン氏は、電子機器の世界の産業構造が変わり水平分業が進んでいることを指摘した。「いまや1社で全てを自前で手掛けるのは難しい。いかに供給メーカーを活用できるかが重要になってくる」としている。これまでの日本は大企業→下請け企業→孫請け企業と、上から下を見下ろす視点で供給メーカーを使ってきた。これではこれからの水辺分業はやっていけない。供給メーカーとも、顧客とも対等なパートナーシップを築くことが成功するカギとなる。資本を増強する場合の出資者は顧客でもよいし、供給メーカーであってもよい。対等なパートナーシップこそ、水平分業時代の重要なカギとなる。

アームの製品がなぜ売れるのか。そのカギとなる考え方も述べられている。今はモバイルインターネットの時代だ。これをどう活用するかで成長できるか、ガラパゴスのままにとどまるかが決まる。「今後5〜10年を見据えた製品開発が欠かせない。我々も、顧客や研究機関などあらゆる意見をよく聞いて製品開発をしている。複数の電子機器に大量に搭載されるよう、異なるさまざまな意見を一つの形にしていく(のは大きなチャレンジだ)」と述べている。5〜10年間成長するための分野(モバイルインターネット)があり、それに向けて電子機器メーカーのエンジニアの話を聞き、それを最大公約数としてまとめる。これこそ、ASSPの考えそのものである。アームはIPベンダーであり、ASSPのような半導体チップは決して作らない。しかし、考え方は共通している。

企業経営者として、「社員をどう動機づけるかに注力している」として、人材開発・育成には力を入れる。行動指針は「チームワークと無私の心」、「実践的な行動」、「協力企業やお客を助ける」、「即応力」、「イノベーションのやり方を自問しろ」である。これらは決して抽象的な指針ではない。すべて具体的であり、社員一人一人が行動しやすくなっている。ただ、それでも「スタッフが育たなければ人材を入れ替える決断も必要だ」としている。いわば新しいチャレンジングな「仕事」をせず、可もなく不可もなく「作業」をしているだけのサラリーマンは通用しない。

(2010/11/29)

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