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米電気自動車のベンチャー、テスラ社に見るビジネス優先の成長戦略

先週のニュースは9日に出そろった電気各社の第3四半期までの決算についてのまとめ記事があると同時に、製造装置メーカーは景気減速の見通しを懸念している。一方で、電気自動車の新しい動きとして米テスラモーターズが日本市場重視の考えを強めていることがはっきりした。

かつては電子機器メーカーの需要動向から半導体メーカーの需要動向に影響するまでに3ヵ月〜6ヵ月のディレイがあり、半導体メーカーから装置メーカーへのディレイが同じ程度あった。このため電子機器から製造装置までの需要の差は半年〜1年くらいあったが、リーマンショック以降、電子機器の需要動向と製造装置のそれとはゼロレイテンシになった。金融と製造装置の両業界が全く同じ歩調を取らざるを得ないことからこういった遅延が見られなくなった。

今回の製造装置のメーカーの景気減速の見通し、DRAMメモリーメーカーの減産、NANDフラッシュの3%価格下落など、景気の先行きが連動して悪くなると言われているものの、減速はそう長く続かない、という見方が大勢を占めている。これは前回の世界不況の到来のような2番底が来るという兆候は今のところ見えないからだ。若干の減速はあるものの、すぐに回復すると多くの業界筋が見ている。インテルは四半期の配当を現在の値よりも14%増配すると発表している(日本経済新聞11月13日)。

むしろ未来に向けた成長するための動きが加速していることに注目していく。米国の電気自動車のベンチャーであるテスラモーターズのCEOであるイーロン・マスク氏が来日、日本との関係を強めることを強調した。日本法人を東京・青山に開設した。

テスラの戦略は典型的な海外企業のビジネス戦略として捉えられる。テスラの使っている駆動用バッテリーは、パソコンなどに使われているごく標準的な18650型の電池を数千本並べたもの。18650型電池は単二と単三の乾電池規格の中間的な大きさで、長さ65mm、直径18mmの円筒状の電池だ。テスラはこれらの電池を三洋電機から調達してきた。トヨタと提携しただけではなく、パナソニックとも提携し、これからの電池調達の道筋を確保している。

テスラは、クルマ専用の電池の完成を待つのではなく、できるところから実用化を早めようという考えだ。このため市販の電池を組み合わせ、さらにバッテリパックを三洋電機に注文してきた。このバッテリパックをずらりと並べてクルマ用の電池としている。この考えはEUVに対するASMLの考えとも共通する。今入手できる光源を使って装置をとにかく設計・製造するという考えだ。光源の出力がたとえ低くてもかまわない。出力が向上した時点で差し替えればよいからだ。今できる所から始めることで、装置の完成度を早い時期に高められるという訳だ。

テスラはいずれクルマ専用のバッテリーを使うだろう。出力性能や信頼性寿命などの点で最終的な消費者に安心を与えるからだ。今、製品化しているテスラのスポーツカー『ロードスター2.5』は売価が1200万円〜1500万円もする。富裕層を狙った少量生産車である。2012年にはセダン『モデルS』も販売する計画をしており、その頃にはクルマ専用のバッテリーを積むだろうと思われる。

電池関連では、サムスンSDIとドイツのボッシュとの合弁であるSBリモーティブ社が米国のクライスラーから電気自動車用のリチウムイオン電池を受注した、というニュースがあった(日経産業新聞11月9日)。クライスラーの提携先のイタリアのフィアットが生産する『フィアット500EV』に搭載するという。

さらに日経新聞の13日の社説では、クルマの無線技術について触れ、2013年に東京で開かれるITSの世界会議に向け、無線技術の主導権を握れという主張を展開している。日本のETCは進んだ技術だと触れているが、日本が実用化したのは2001年以降であり、それほど進んだ技術とは言えない。シンガポールでは自動料金徴収システムを1990年代後半から始めており、日本のETCの変調方式はASK(amplitude shift keying)変調というどちらかといえばローテク技術を使っている。ゲートのバーが開閉する速度は遅く、ドライバは減速しなければならない。社説では日本が無線の標準化の主導権を握れ、と訴えているが、特殊なローテク変調技術を標準化するのは無理がある。逆に、早く海外の標準化システムを導入する方が、ETC産業やエレクトロニクス産業にとっては海外でも日本でもどちらにも売れるため恩恵が多い。今後の車車間無線通信システムなどは標準化動向をにらみ、世界標準となりそうな規格を選ぶようにすることが世界で勝てる戦略になりうる。

日本独自の規格を標準化することに注力することは、これまでの日本人には苦手であるばかりか、こだわり過ぎるとビジネス機会を逃し、ガラパゴス化して世界から置いてきぼりをくう恐れがある。標準化するつもりがあるのなら、毎月あるいは2カ月に1回海外から担当者を呼び会議を開きすり合わせを進め、時にはテーブル外の交渉も絶えず進め標準化案の理解を深めていく覚悟が求められる。もちろん、電子メールベースでの海外との交渉を毎日のようにすることは言うまでもない。日本の基本案だけではなく、海外の意向を含めながら交渉し標準化の最終案を固めていく。日本国内だけで案をすり合わせてISOやIECに提案してすぐに標準化案が受け入れられるものでは決してない。

(2010/11/15)
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