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リチウムイオン電池搭載のハイブリッドカーが初登場、半導体の新市場開ける

先週は、ハイブリッドカーとして初めてのリチウムイオン2次電池を採用する日産自動車の「フーガハイブリッド」を採り上げようと考えていた中、東芝がインテル、サムスンと次世代半導体で連合するというニュースが10月29日の日本経済新聞に出た。「こりゃ一体なんだ?」、経産省が支援するという誠に奇妙奇天烈な内容だ。

フーガハイブリッドに搭載された1モーター、2クラッチのエンジン 右側がガソリンエンジン、真ん中がモーター、左側はクラッチと回転軸

図1 フーガハイブリッドに搭載された1モーター、2クラッチのエンジン 右側がガソリンエンジン、真ん中がモーター、左側はクラッチと回転軸


日経新聞は東芝を主語にして「東芝は、・・・・共同開発する」と書かれているため、早速ニュースリリースを見てみたが何も発表はない。新聞報道では10nm台の開発を2016年までに行う、としているが、新聞報道ではリソグラフィ技術の開発がメインのようだ。それもリソグラフィ装置以外のレジスト、マスク、それらの検査装置などの開発というテーマであり、東芝が前面に出てくるテーマではない。

それをなぜ経産省が後押しするのかもわからない。東芝とエルピーダ以外の国内半導体メーカーは全て非メモリーメーカーであり、彼らは微細化開発を止めたと言っている訳だから、半導体売り上げ世界第3位の東芝1社のために経産省が後押しすることになる。というのは、エルピーダは量産目的の製造企業であり研究開発型メーカーではないので共同開発には参加しないからだ。

そもそも日本の半導体メーカーが弱くなった要因の一つとして日本の得意なメモリー製造技術を捨て、設計重視のSoCに移行したからだ、という業界関係者の意見もある。一方で、日本では競争力と言いながら、競争力を高めるために最も重要な低コスト技術の開発を誰もやってこなかった。国家プロジェクトのテーマにさえ、「低コスト技術開発」は上らなかった。ただ単に45nm、32nm、28nm、22nm、そして10nm台と微細化を追求してきただけにすぎなかった。それもこれ以上の微細化は設備投資にお金が掛かりすぎるため、日本の非メモリーのSoCメーカーは微細化を止めてしまった。

全てがちぐはぐで、今の日本の半導体メーカーにとって何が重要かという視点での議論は何もされなかった。そこへ来て旧態依然とした微細化の追求というテーマを今回持ってきている。そもそも東芝もインテル、サムスンも、米国のコンソーシアムSEMATECHのメンバー企業である。東芝はIBMとのコラボレーションチームにも参加している。10nm台のリソグラフィ開発にはレジスト開発も含め、オランダASMLの装置を使ってSEMATECHとベルギーIMECで始まっている。この上、何を開発しようとするのか、国民の税金を使って。税金を使うのであればもっと有効に使ってほしい。

このような頓珍漢なテーマではなく、リチウムイオン電池のハイブリッド車での採用というニュースをフォローしたい。これまでのハイブリッドカーにはトヨタのプリウス、ホンダのインサイトともニッケル水素電池が搭載されてきた。今回初めて、ハイブリッドカーにリチウムイオン電池が搭載された。このフーガハイブリッドは11月2日から発売になる。

今年5月に開かれた『人とクルマのテクノロジー展』で、日産のフーガハイブリッドもトヨタのプラグインハイブリッドプリウスも展示されており、どちらもリチウムイオン電池を搭載するハイブリッドカーだった。リチウムイオン電池は、ニッケル水素電池と比べ、体積エネルギー密度で数十%、重量エネルギー密度で2倍程度高いと言われており、同じエネルギー容量であればリチウムイオン電池の方が小さくて済むため、車内スペースを大きく採れるというメリットがある。このため、電気自動車にはリチウムイオン電池の高エネルギー化、安全性、バラつき低減などを目指し各社開発している。

電気自動車の動力としてのモーターに使うためには330〜350Vに昇圧する。1セル当たり3.6V程度のリチウムイオンセルを100個程度直列接続して使うことが基本となる。直列につないだ電池の充放電特性のバラつきを補償するバッテリ制御IC(高耐圧プロセスが必要)は、米国のリニアテクノロジが先行していたが、デンソーも追いかけている。

リチウムイオン電池の周りには、充放電監視、バラつき補償、急発進でのリンギングを防止するICなど、パワートランジスタ以外のSi半導体の応用はたくさんある。バッテリ技術者やモーター制御システム技術者、あるいは電動油圧制御技術者などと半導体技術者は対話して、リチウムイオン電池の周りに必要な半導体の要求に耳を傾け、自動車エンジニアの欲しがる半導体ICの姿を整理して、最大公約数として仕様をまとめる作業をすることで、売れる半導体を開発できる。機械式の油圧方式は次第に電動油圧方式に変わりつつある。ここにも半導体の新市場が出来つつある。こういった市場を見つけるためには半導体技術者と自動車技術者との対話が欠かせない。技術者が直接話をするのもよし、技術者上がりのマーケティングエンジニアが対話するのもよし。いずれにしても自動車技術者の要求を知ることが売れる半導体を設計製造するための第一歩となる。

(2010/11/01)
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