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日本人のノーベル賞受賞の快挙とCEATEC

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先週のビッグニュースは何と言ってもノーベル化学賞を二人の日本人が受賞したという話だろう。10月7日日本経済新聞の1面トップを飾った。10月5〜9日間、千葉県の幕張メッセで開催されていたCEATECの影が薄らいでしまったという感がある。北海道大学名誉教授の鈴木章氏と、米パデュー大学特別教授の根岸英一氏が快挙を成し遂げた。

CEATEC2010の会場風景

図1 CEATEC2010の会場風景


ノーベル化学賞受賞の仕事は、「クロスカップリング反応」という手法を開発したことである。二人とも化学の分野ではよく知られた有名人だそうで、この手法は結合しにくい高分子などの有機化合物を、触媒を使って結合させる技術である。医薬品や液晶材料そのものの開発に寄与した結果だとメディアは伝えている。

ノーベル賞受賞が多い京都大学や東京大学理学部ではないという点も面白い。鈴木氏は北大を卒業されそのまま北大の教授になられ、根岸氏は東大工学部を卒業された後、帝人に勤務され、さらに米国で研究生活に入られた。根岸氏は2008年にクラゲのバイオルミネッセンスの研究でノーベル化学賞を受賞された下村脩氏と同じように米国籍を取得されたアメリカ人でもある。

受賞のニュースをテレビ取材班が追いかけてインタビューしていたが、2人とも非常に喜んでおられていた姿が印象的だ。共にパデュー大学のH.C.ブラウン教授の元で受賞した研究を始めている。鈴木氏は、学生のおかげ、共同研究者のおかげと言っており、周りへの気づかいの細やかな人という人柄を覗かせた。学生にとっては北大を誇りに思うだろうし、学生から握手を求められる姿もほほえましく見えた。根岸氏は受賞のニュースを聞いた後も自分の受け持つ講義を続行し、学生を大切にしている姿に頭の下がる思いがした。

そもそもノーベル賞は、海外へのアピールがなくては絶対にと言ってよいほど受賞はできない。国内にいるだけでもらえる人はまずいない。ましてや英語を使えない受賞者など通常はいない。2008年に益川敏英氏がノーベル物理学賞を受賞した時は英語を話せず、英語は勉強しなくても受賞できるというような雰囲気があった。しかし、彼の恩師である南部陽一郎氏が益川、小林誠の両氏を海外に売り込み、名前を知られるように宣伝してくれた。このことが極めて大きい。今回、鈴木・根岸両氏とも英語の大切さを語っていたことは研究者がノーベル賞を目指すのならやはり英語は重要なコミュニケーション手段となろう。

ノーベル物理学賞は英国マンチェスター大学のアンドレ・ガイム氏とコンスタンチン・ノボセロフ氏によるグラフェンの研究に決まった。グラフェンはいわゆる亀の子の炭素分子が1原子層分の厚さだけ2次元平面に並んだ構造をしており、導電率が高いという特徴を持つ。グラフェンは、同じ炭素原子だけからなるカーボンナノチューブやグラファイト、フラーレン、ダイヤモンドといった亀の子構造だけの炭素分子材料と同じ仲間である。グラフェンだけがなぜ受賞したのかについていろいろな推測はあるものの、グラフェンは今後の応用展開が期待されて受賞されたのだろう。

ノーベル賞の話題に対してCEATECの話題が霞んでしまったが、CEATECにはもはや半導体メーカーの参加が遠のいたと言えよう。今回は、ロームとその子会社になった沖セミコンダクタしか出ていなかったように思う。見逃した企業があるかもしれないが、昨年から出展しなくなったルネサスエレクトロニクス、富士通セミコンダクタ、STマイクロエレクトロニクス、テキサスインスツルメンツ社などは今年出展していない。このため半導体に適した展示会ではなくなっている。ルネサスによると12月のET(Embedded Technology)には出展するという。理由は半導体の潜在顧客が来場するからである。

CEATECに来られた業界の人たちの声を聞いてみると、もはや半導体も電子部品も目新しいものはなくなった、消費者向けの最終製品だけになるのならもはや来ても仕方ない、などが挙がった。最終製品のブースには人だかりが多いものの、このショーがB2Bではなくなるのであれば、ETをはじめとしてB2Bのショーをしっかりカバーしてその中のニュースを伝える方向へとしっかり舵を切らなければならない。反面、CEATEC会場にブースは出さないものの、近くのホテルで記者会見やインタビューを開催した企業はあった。CEATECはもはや消費者向け最終製品だけの展示会へと変わりつつあるのかもしれない。

(2010/10/12)

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