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半導体メーカーのインテルがなぜ、セキュリティソフトのマカフィーを買収したか

先週は夏休みが明け、企業からの発表は少なく、記者会見もほとんどなかった。記者仲間でいう、いわゆる夏枯れ状態だった。そのような中、最も注目を集めたニュースはインテルがセキュリティソフト会社のマカフィーを買収したことだろう。半導体とセキュリティソフト会社。この関係について考えてみたい。

インテルは、言わずと知れたパソコン用マイクロプロセッサに特化した半導体メーカー。売り上げ規模は世界1位。1992年に前年1位のNEC、2位の東芝を抜いてトップになって以来ずっと第1位をキープしている。DRAM製品を80年代中ごろに捨てて以来、インテルの歩みはパソコンの歩みそのものだった。マイクロソフトのOSと共にパソコンの高機能化を次々と成し遂げ、性能優先の設計を繰り返してきた。しかし、性能を優先するあまり大きくなってしまった消費電力がもはや悲鳴を上げ、単位面積当たりの消費電力は原子炉並みの温度になってきた、とインテルは表現していた。そこでマルチコアなどの並列処理技術を導入してクロック周波数を下げ、消費電力を下げてきた。

一方で、ノートパソコンから5万円パソコン、ネットブックへと軽いしかもネットとつながるパソコンが求められるようになると、インテルのAtomでさえオーバースペックになり、アームのプロセッサIPがちょうどいいサイズのプロセッサとして、iPadをはじめとするタブレットPCに使われるようになってきた。インテルは今、焦っている。次のネタ、次の飯のタネを必死に求めている。WiMAXしかり、無線給電しかり、さまざまな新分野に進出している。今回、マカフィーを買収したのはまさにその狙いの一環である。

ローエンドPCをアームに取られても、ミッドレンジからハイエンドは死守したい。クラウドコンピューティング、仮想化技術、スーパーコンピュータ向けの超高速バス仕様など、ハイエンドにも向かう。一方、競合していたAMDは一足先にハイエンド分野へ行き、インテルとの住み分けができたと安心した所にインテルが攻めてきた、という構図だ。HyperTransportのようなスパコン向け超高速バスで実績を確保したAMDに対する差別化技術は何か。その一つとしてインテルが考えたのが、システムのセキュリティということになる。マカフィーの買収はインテルにとって、AMDとの競争に勝つための差別化技術となる。

インテルが異分野のマカフィーを買収して傘下に収めるような、周辺を強化してコアコンピタンスをより強くするという考えは、実は日本にもある。モーターメーカーの日本電産は米国の電機大手エマソン・エレクトリックからモーター事業部門を買収すると8月19日の日本経済新聞は伝えた。日本電産にとって米国販路はのどから手が出るほどほしかった。さらにこれからの電気自動車に使うモーターもエマソンは持っている。これまで大型の空調機用モーターを手掛けてきたエマソンの技術は電気自動車に生かせる。これからの成長分野に打って出るにはエマソンの技術が必要だったという訳だ。

このほか、トヨタ自動車がもつトヨタホーム、トヨタグループが持つ27.8%株式を握るミサワホームと一緒に、エネルギー自給型住宅を共同開発するというニュースが今朝、日経トップで報じられた。個人住宅において電気自動車を充電する場合の電力源を自給できれば電力網(グリッド)の負担を軽くできる。太陽光、太陽熱共に電気に変換すると、当然パワーコンディショナを使うことになる。ここはデンソーの力を借りて省エネの自動制御システムを開発するとしている。自動車企業が住宅に乗り出し、再生可能エネルギー、さらには将来のスマートグリッドへとつなげれば、自動車のバッテリともつながることになる。まさに成長戦略を地で行くことになる。

印刷業界最大手の大日本印刷は半導体のマスク製造、リードフレーム製造、ICカードへとコアコンピタンスを中心に手を広げてきたが、今度はNFC規格に基づいたICカードのサービス事業にも進出するというニュースもあった。NFCを使ってセキュリティ分野を強化することが狙いのようだ。ICカードとNFCを使った非接触カードのセキュリティサービスをどのようにして展開していくか、目が離せない。

異業種との提携、拡大の動きがある一方で、相変わらず同じ製品で競争している分野もある。3Dテレビの競争が激化してくるようだ。19日の日経産業新聞によるとソニーが今はシェア63.2%でトップだそうだが、シャープ、パナソニックが続き、今後東芝や三菱も参入するとしている。しかし、立体テレビは人間の頭の中で画像を3次元に見えるように頭脳を駆使しており、目のピントをそれに合うように調整している。リラックスしてテレビを見るのではなく緊張し続けながらテレビを見る訳だ。メガネ付きのテレビならまだ頭脳計算の負荷は軽いと言われているが、3Dテレビは「ピカチュウ」のような健康問題がいずれ浮上する。今からその対策、クレームなどへの対応を考えなければなるまい。

(2010/08/23)
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