円高一服、パワー半導体がSiC、GaN、JFETなど新しい動きへと活発に
先週のニュースでは11日に円が一時84円台にまで上がったことによる半導体産業への影響が懸念された。8月4日に86円レベルにあった為替が急速に上昇してきたが、11日以降は元に戻りつつある。円高は輸出産業には痛手となるが輸入産業には売り上げ増につながる。半導体産業にとっては何が問題か。
これまでの半導体産業は国内指向で、海外比率を上げていかなければならないと言われている。海外に成長市場があるのにこれまでは指をくわえていたような状態だった。特に、中国やインドなどこれから成長が期待される国への輸出あるいは現地生産は強く求められていた。
しかし、円高になればその必要性は薄らぐ。グローバル化しなくてもよいという考えが蔓延する可能性はある。企業を動かす人間が楽な道を選ぶと、円高になり海外進出は止めようという意見となって出てくる。これが最も怖い。長期的にはグローバル化はマストであり、国内には海外から製品がドンドン入ってくるため、国内市場はますます小さくなっていくからだ。幸い、円ドルレートは週末に86円台まで戻ってきており、グローバル化を加速することがやはり求められる。
気になるニュースはパワー半導体である。富士電機が古河電気工業と共同でスイッチング用GaNパワーデバイスを開発する技術研究組合を設立したが、日本経済新聞が8月13日に報じたニュースはその成果のようだ。GaNパワーデバイスという場合はSiCと違ってトランジスタという意味で捉えてよい。というのはHEMTと同じ2次元電子ガスを利用するパワーデバイスだからである。ショットキ・ダイオードを横型にしたパワーデバイスは考えにくい。電流を十分に確保するのにチップ面積が大きくなってしまうからだ。富士電機はSiCも手掛けているが、MOSFETとしての実用化はGaNが早いかもしれないため、その『保険』的にGaNも手掛けているのだろう。
パワーデバイスの大きな市場となるスマートグリッドの実証実験を横浜市と、愛知県豊田市、北九州市、関西文化(けいはんな)学術研究都市の4市で行うニュースもあり、韓国の現代重工業が米国から7億ドルのソーラー発電所を受注し、アリゾナ州に150MWと25MWという巨大な発電所を建設するというニュースもある。欧州からは2009年に新たに設置された発電所のうち風力やソーラーなど再生可能エネルギーは全体の62%を占めたと報じられた。
一方、日刊工業新聞は8月11日、富士電機や三菱電機がSiC半導体の量産体制を構築し始めることを報じた。新聞によると、あくまでもSiCパワー半導体という表現しかとっておらず、その実態はSiCショットキ・ダイオードであろうと想像する。SiCのMOSFETはまだ実用化にはほど遠いからだ。
SiCは今のところショットキ・ダイオードしか実用化できていない。MOS表面制御ができるほど十分な電子移動度が得られないからである。SiC MOSFETの電子移動度はSiよりもはるかに小さい数10cm2/Vs程度らしい。MOS表面に結晶欠陥をシリコンほど制御できていない。これではトランジスタの実用化はまだ遠い。ショットキ・ダイオードなら表面を金属と合金化してしまい、結晶欠陥の影響をつぶしてしまえるため、実用化は早い。
トランジスタ構造としてJFET(接合型電界効果トランジスタ)を使えば表面チャンネルの影響を受けないため、SiCの生の性能が得られるはず。ただし、ノーマリオン型しか作れないため、ゲートをマイナスに引くためのバイアス回路を工夫する必要がある。インフィニオンが今年末までにSiCのJFETを商品化すると7月下旬に東京ビッグサイトで開催された「テクノフロンティア」で述べたのは、実用化を優先するからだ。この詳細は、9月22日セミコンポータル主催の「パワーエレクトロニクスの全貌と半導体の未来」の中でインフィニオンから直接、講演を聞くことができる。