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菅直人新政権に対する期待、成長産業を見分ける眼を持ってほしい

先週のビッグニュースは菅直人新政権の誕生であろう。半導体・エレクトロニクス業界への影響はどうなるだろうか。鳩山幸夫元首相と同じ理系出身の総理大臣であり、東京工業大学理学部応用物理学科を卒業している。少し考えてみたい。

政治力学的なことはさておいて、と言いつつ、20%前後まで低下した支持率が50%台に戻したというマスメディアの数字を信じるならば、新政権につい期待してしまう。

期待というのは、半導体・エレクトロニクスは成長産業である、という認識だ。成長戦略会議の出した結論は、「環境とエネルギー、医療・介護」、という分野がこれからの成長分野だというが、この程度のことであれば半導体・エレクトロニクス産業に携わる者なら誰でも知っている。大事なことは、「環境、エネルギー、医療・介護」の全てが成長していく訳ではないだろう。それぞれの何が、どの分野(さらに細かい分野)がなぜ成長すると言われるか、これまでの「環境、エネルギー、医療・介護」とは何が違うか、という認識である。

これらに共通する成長分野とは、「スマート(=賢い)」だということであろうと思う。例えば、従来通り、人海戦術で介護福祉を担うだけなら成長に限界がある。携わる人たちの待遇や給料を良くしながら、ケアが必要な人たちが自立できる仕組みを作らなくてはならない。エネルギー問題も従来通りの火力発電を推進する訳では決してない。再生可能エネルギーをいかに低コストで作り出し提供するか、という視点が抜けていては従来と何ら変わらなくなる。環境問題も同様だ。大気汚染を防ぐ高価な脱硫装置を設置することはもはや解決策ではない。CO2削減にならないからだ。

新しい「環境、エネルギー、医療・介護」の成長分野に必要なのは、低コストで良質のサービスで、しかも環境負荷の少ないテクノロジーを提供することに尽きる。となると、それを実現するための切り札こそ、半導体チップということになる。半導体チップを使えば、高齢の患者が自宅で、体温・心拍数・血圧など体の基本データを常に測定し、測定データを医師が常にモニターしている環境が実現できれば、病院へ行く必要はない。医療費削減につながり、入院ベッド数削減にもつながる。地域の電力網にIPアドレスを振り分け、電力のピークを常に低く保ちながら電力を制御する高度なスマートグリッド、すなわちデジタルグリッドにすると、安定な電力を低コストで提供でき、停電を起こさず、かつ安い電力料金を実現できるはずだ。再生可能なエネルギーを安定に制御し効率よく作り出すテクノロジーも実現できる。

半導体は、こういった新しいテクノロジーを低コストで作り出せる唯一のテクノロジーではないだろうか。しかもそれを実現するための仕組みが組み込みシステムであり、組み込みシステムの低コスト化、小型化を実現するのが半導体である。組み込みシステムは、人間の賢い智恵を半導体に、アルゴリズムやソフトウエアとして焼き付ける。たとえ、微細化技術の進展が止まったとしても、人間の智恵は無限にある。その無限の智恵を半導体チップに焼き込むことでニーズを実現する訳だから、半導体は成長産業だといえるのである。

半導体製造の中にも解決すべき課題は多い。例えば、SiPやマルチチップパッケージに使うシリコンは出来上がる850μmほどの厚さを1/10に薄く削りとっているが、残りの90%のシリコンは無駄になっている。これを何とか生かせないか。あるいは100μmの厚さでも作業できるハンドリング技術を実現できないか。三洋電機は厚さ100μm程度のシリコンから半導体太陽電池を作る技術を持っている。太陽電池の構造は半導体ICに比べると構造があまりにも単純だが、複雑なICチップでも同じことが実現できれば、低コストはもちろん、環境負荷も減る。人間の智恵でこういった現在の問題を解決できれば、発展成長できる余地は大きい。

新しく成長できる「環境、エネルギー、医療・介護」でもう一つ共通するテーマがワイヤレステクノロジーだ。制御するのに半導体はもちろん有効だが、ワイヤレス技術はその基本データを制御すべきコンピュータに送る技術の根幹をなす。ここにはアナログRF技術だけではなく、大量のデータを運べるOFDMや、拡散スペクトラムなどのデジタル変調技術が必要となる。ここも半導体の宝庫となる。この分野の人材育成にも力を入れる必要がある。

新政権に期待することは、成長戦略の柱である半導体エンジニアを育てる人材教育、税制優遇策などの仕組み作りである。法人税に引き下げを検討する場合も、金融業と製造業はコスト構造が全く違う。グローバル競争の観点も違う。全ての企業を法人と一括せず、雇用を生み出す元となる成長産業への税制優遇を念頭に入れてほしい。大企業と中小企業という区分けはもはや意味をなさない。むしろ成長産業への認識こそ、将来の発展や雇用につながる基本であろう。

(2010/06/07)
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