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iPadの本当のインパクトはアラン・ケイの白板(デジタル教科書)ではないか

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先週は、ルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが合併した「ルネサスエレクトロニクス」が、予定通り4月1日に発足した。昨年、合併が決まった時の両社の『足し算』では世界第3位の規模になるはずだったが、3月17日に市場調査会社のアイサプライが発表した『足し算』では95億3700万ドルの第5位に落ちてしまっている。

旧ルネサスから来た赤尾泰社長、旧NECエレからきた山口純史会長という、たすき掛け人事による経営陣の体制のもとに、新生ルネサスを出発させる。4月1日から100日プロジェクトと呼ばれる、戦略方針を決める計画だ。100日、すなわち7月9日に戦略が決まり、その後発表があるはずだ。

単純な足し算では2009年度(2010年3月期)の最終損益が1420億円と赤字になる見通しだと日経新聞は報じている。合併が決まった時は、両社とも黒字にして4月1日を迎えると言っていたが、残念ながらそうはならなかった。世界の半導体市場は昨年4月からは連続上昇傾向でやってきたため、日本の半導体メーカーは最悪期であった2009年1~3月期の財務数字を2008年度に回してきたため、2009年度は黒字になってもおかしくはない景況だったのにもかかわらず、黒字に転換できなかった。この赤字原因解明と対策という手を打てないままの合併となり、前途多難が予想される。

「半導体産業の変化に即応し、世界のライバルに対抗しよう」と赤尾社長は奮起を促したと伝えられているが、新会社がそうあって欲しいと願う。


アップルが4月3日に発売したiPad
アップルが4月3日に発売したiPad


先週最大のニュースは、実はiPadの発売である。もちろん、これは以前から4月3日に発売することが伝えられてはいたが、現実に発売され、4日前からニューヨークにあるアップルストアの前に並んだというファンもいたと伝えられている。iPadは、iPhoneの大型版のような体裁で、機能も通話以外は似たような機能だが、電子ブックとしての用途がしっかりしている。

アップルは書籍をダウンロードするためのウェッブ上の店舗iブックストアを持ち、電子データの書籍を揃えている。ユーザーはiPadを購入すると即座に本を購入できる。ただし、iブックストアの本はiPadでしか読むことはできない。しかし電子ブックのキンドルを開発した、ライバルであるはずのアマゾンとも奇妙な共存関係を結んでおり、アマゾンが配布しているiPadで読むことのできるソフトを使えば、アマゾンが揃えているキンドル用の書籍も読める、という。

iPad、その技術の中心となるアプリケーションプロセッサや、通信モジュール、GPS、無線LAN、Bluetoothなど重要な半導体は残念ながら日本製が使われていない模様だ。せいぜい水晶発振器やコンデンサ、フラッシュメモリなどの電子部品しかない。日経新聞のウェブサイトによると、プロセッサはP.A.セミの製品らしい。P.A.セミはアップルが2008年4月に買収を決めたファブレス半導体であり、PAセミの創業者は、有名なDECのAlphaチップを開発した人物。2008年当時、アップルがなぜP.A.セミを買収したのか、だったが、今その謎が解けた。

一方、4月2日にソフトバンクの孫正義社長が、デジタル教科書の普及を推進するというニュースもあったが、ここに登場する「デジタル教科書」は、おそらくiPadのようなツールではないだろうか。2000年ごろ、ノートパソコンの提案者、アラン・ケイ氏にインタビューした時、彼の今考える「教育メディア」はA4サイズほどの白板に子供たちの描く絵や文字と教師とが共有し合える共通白板だと述べていた。

教育上、教師と子供が情報を共有できるように書き込み読み込みができる白板こそが新しいメディアになりうると言っていたことを思い出した。アラン・ケイの白板は、子供たち全員と教師が同じ白板の上でさまざまなアイデアを共有できるツールであり、教師はこれまでの黒板に描くコンテンツを白板に記し、一人ひとりの子供の書き込みをみることができる。個々の子供の考えを教師が理解し、共有できるとすれば、教育はがらりと変わるだろう。

スティーブ・ジョブスのiPadが、アラン・ケイの白板教材になるとしたら、教育上の世界的なインパクトを与える可能性がある。すなわち教え方の世界標準ができ、iPadのような白板で世界中の子供たちを教えられる環境ができるとすれば、貧困・格差の解消ともなりうる可能性を秘めている。教科書のコンテンツは各国語でダウンロードできるだろうから。となるとiPadあるいはこれからのeブックはただ単に本を読むためのツールではなく、コミュニケーションツールとなり、教育ツールとなる可能性がある。

(2010/04/05)

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