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メモリー技術と市場の動向から、エルピーダのスパンション買収を考える

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エルピーダがスパンションの研究開発拠点を買収するというニュースで驚き、続いて富士通の元社長が富士通本社を相手取り、辞任の取り消し要求を始めたというニュースにもインパクトを感じた。

まずエルピーダメモリが、経営再建中のスパンションを買収するというニュースは、NANDフラッシュのIPとイタリアのミラノにある研究拠点を買収するということのようだ。スパンションはもともと米国のAMDと富士通が合弁で作られたNORフラッシュメモリーの専門会社。昨年経営破たんした後、経営再建を進めている最中であった。

ただ、フラッシュメモリーの技術トレンドはNORからNANDへ流れており、市場も従来の携帯電話に使われたNORフラッシュから、デジカメやUSBメモリー、音楽プレーヤーなど低速でもかまわないが容量は大きいストレージデバイスとしてNANDフラッシュが求められるようになってきた。このためNORの市場は徐々に減りつつあった。

スパンションは、イスラエルのメモリーベンチャー、サイファンセミコンダクター(Saifun Semiconductor)が持つ2ビット/セルのNROM技術のライセンス供与を受けただけではなく、サイファンそのものも買収した。この技術がスパンションのMirrorBit技術の源となっている。NROMはセル内の空間的に別の場所に電荷を溜めるタイプのフラッシュであり、生まれながらに2ビット/セル構造を持っている。このため、4ビット/セルは電圧を4分割するだけで比較的簡単にできるため大容量化しやすい技術ではあった(従来のフラッシュなら16分割が必要)。さらにこの技術をベースにORNAND技術を生み出した。

エルピーダからみれば、今後の組み込み市場を考えるとDRAMの大容量化は期待できないため、フラッシュなどのストレージはのどから手が出るほど欲しかったはず。これまで何度も述べてきたように、32ビットシステムでは4Gバイト以上のRAMをアドレッシングできないため、4Gバイト以上のRAMは無駄になる。もちろん、コンピュータシステムが48ビットや64ビット以上というハイエンドや、128ビットといったスーパーコンではRAMメモリー容量は制限がさらに先にいくためいくらでもほしいが、そのような市場は小さい。例えばサーバー市場は毎年縮小している。

エルピーダはPRAMと呼ばれる不揮発性メモリー技術も開発しているが、PRAMあるいはPCRAMは、RAM動作には向かないことがわかってきて、NANDフラッシュと同様のストレージ市場しかあり得ないことがはっきりしてきた。となると、DRAM以外に開発すべきストレージメモリーはPRAMなのかNANDフラッシュなのかを考察すれば、NANDフラッシュの方が市場も将来性も大きい。MNOS構造を持つORNANDを工夫すれば、現在のフローティングゲート構造のフラッシュの限界を打ち破る可能性もある。だから、スパンションを買収したのだろう。

エルピーダのニュースの翌5日、今度は富士通の元社長を務めていた野副州旦氏が辞任を取り消すように求めていた文書を会社側に送付していたという事実が明るみに出た。野副氏が社長を辞めた時、「病気療養のため」という理由だったが、社員たちは元気な相談役野副氏の姿をその前も後も確認している。この社長交代は一体何だったのか、多くの社員はいぶかしがった。経営陣がこういったウソを言って社長を交代させることは、社員のモチベーションを下げてしまう。すなわち会社の元気を奪ってしまうことにつながる。

この問題は続編がある。翌6日には現在の肩書であった相談役を解任すると富士通は発表した。それも辞任の時の理由を「病気療養のため」ではなく、「好ましくない風評のある企業経営者と付き合っていたため」と変えた。野副氏は、会社に迷惑がかかるからということで、辞任要求を受け入れたが、その後、「自分が付き合っていた人間は反社会的な勢力ではないと確認した」と述べたと5日の日経新聞は報じている。

どちらの言い分が正しいのかわからないが、いずれにしてもこのような不透明なゴタゴタを経営陣が行っているということはコーポレートガバナンスが機能していないということを公にしたことに等しい。株式市場での評価は間違いなく落ちるだろう。経営陣の責任は重い。

(2010/03/08)

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