2009年、前半の暗さから一転、後半は明るい成長可能な応用が見えてきた
先週のニュースは相変わらず、リチウムイオン電池、太陽電池、パワー半導体などの新しい分野のニュースが多かったのに加え、韓国、台湾の活発な動きも目立った。ただし、目玉となるビッグニュースはなかったと思う。今年最後のニュース解説では、この1年の大きなニュースや動きを拾ってみる。
2009年は年明け早々、ドイツのDRAMメーカー、キマンダの経営破たんに始まり、NORフラッシュメモリーのスパンシオンの会社更生法申請、エルピーダメモリの際どい資金繰りなど、1~3月は危険な話題が多かった。2月には東芝とNECエレクトロニクスの統合に関する”勇み足”の記事が掲載され、その後4月にNECエレクトロニクスとルネサステクノロジとの統合へと変わった。
この2009年前半の最大の話題であり、今後の経営問題として、大きな教訓を与えたのがエルピーダメモリの資金繰りだろう。同社CEOの坂本幸雄氏は、2008年第4四半期、2009年第1四半期の大赤字に対して、もはや借金ではなく資本増強という手段に出た。出資を仰ぐため、3つの方法を全て採った。一つは、重要顧客からの出資、二つ目は日本政府による出資、三つ目は台湾当局からの出資だった。一つ目はクリヤーした後、二つ目の日本政府の対応の遅さから、三つ目が先に調達可能かと思われたが、台湾メモリーという合弁企業の方針を巡ってUMCの代表者をトップに据えたところファブレスモデルにしたいと述べたことから大混乱に陥り、いまだに解決しないままにある。逆に二つ目の日本政府は「産業革新機構」設立の法案を通した後は、スムーズに出資に向けた動きを行い、6月末には日本政策投資銀行が300億円を出資することを決めた。
この坂本方式で学ぶべきことは、出資を巡る方策の全てを行ったことである。3つのやり方があれば1つだけで良しとする、のんきな方策ではない。考えられうる全ての対策を施さなければ会社がつぶれてしまう、という危機感が会社を救った。さまざまなブログの中には、政府からの出資は市場経済的ではないという声もあったが、そんな悠長なことを言っていられない、という事情があった。その後、DRAMは世界中のメーカーが生産量を絞り、顧客の在庫が掃けたため、つい最近までゆっくりとした値上げ傾向が続いてきた。メモリー価格の値上げによりDRAMメーカーは一息ついている。メモリー価格が原価割れさえしなければ、世界のサムスンと競争していける。
2008年の3月ごろから、派遣社員など外部の人材の応援を止めてきたトヨタが増産に転じるという話を「2月23日のニュース解説」で紹介したが、少しずつ明るさが見え始めた。
4月にはNECエレとルネサスとの合併の話が持ち上がり、正式に発表した。海の向こうでは米国グループウェア企業トップのオラクルがサーバーメーカーのサンマイクロシステムズを買収するという話題が上った。ソフトウエアだけでは実際の機能はせず、ハードウエアだけではただの箱になってしまうコンピュータシステムでは、ハードとソフトの両輪がなければ最適なシステムは作れない。
コンピュータと同じ、プロセッサやメモリー、周辺回路、インターフェースなどからなる組み込みシステムは、コンピュータと同様、ハードとソフトの両輪がマスト。組み込みシステムへの進出を狙っているインテルは、6月にリアルタイムOSメーカーのウィンドリバーを買収した。やはり同じような狙いがある。世の中の電子機器、制御機器、精密機械、自動車など、半導体を使ったありとあらゆる「電子製品」が組み込みシステムへと動いているこの現代を的確に捕えなければ、SoCメーカーとして成長できない。
この組み込みシステムにさらにワイヤレス技術を加えることが、これからのさまざまな応用――民生、自動車、医療、ヘルスケア、エネルギーハーベスタ、精密機器、計測器、環境機器、太陽光エネルギー機器、リチウムイオン電池向け技術、その他産業用――に対処できる万能技術となる。これを知っているインテルは、6月にノキアと提携した。さらに加えてこれらの応用に共通する回路がパワーマネージメント、安定化電源回路(レギュレータ)である。
英アームがスマートブック、インテルはネットブックと呼ぶ携帯用コンピュータに向けた市場も来年成長する。インターネット検索企業である米グーグルがクロムOSを発表し、携帯用コンピュータに搭載すると発表した。そのスペックには、電源オンの2~3秒で立ち上がる、インターネットとつなげる、しかも業務時間内は電池で連続動作可能、という理想的な軽いモバイルコンピュータを提案している。このためには消費電力が低い半導体や、不揮発性メモリー(多分フラッシュ)が必要になる。ストレージはフラッシュ、HDDを問わない。フラッシュはHDDになるとしてもそのキャッシュ用として使われる。
2009年後半になり、半導体の新しい応用がはっきりと見え始めた。電気自動車、LEDバックライト液晶テレビ、キンドルなどの電子ブックなどだ。これらの応用に向け、リチウムイオン電池向け半導体、LEDドライバ半導体、モーター制御用のパワー半導体、などなどがある。先週になると、各社の半導体工場がフル稼働しているというニュースで持ちきりになった。週末のテレビの解説者や評論家たちは2番底が来ると警告しているがその根拠は何もない。半年先が見えないから、というだけ。警戒心が強いと世界の成長についていけなくなる。それこそ、日本だけが2番底に陥ってしまう。無責任な評論家に惑わされてはいけない。2010年に成長できない企業があるとすれば、まさに経営問題だろう。