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電気自動車が与える、半導体市場への大きな影響が見えてきた1週間

先週、ビッグニュースはなかったものの、「環境」というテーマでくくるべき一連の大きな動きが見られた。電気自動車に向けた大きな流れである。これについて紹介しよう。電気自動車向け半導体といえば誰でもSiCやGaNなどのパワー用途を思い浮かべるが、決してパワーデバイスだけが電気自動車用ではない。スマートグリッドとも関連する。

発売された三菱自動車工業の電気自動車i-MiEV

発売された三菱自動車工業の電気自動車i-MiEV


米アナログデバイスが自動車用半導体に占める日本市場の比率を現在の10%未満から30%を目指そうとしているのは、電気自動車への動きが日本市場では活発になっているからである。アナデバが力を入れるチップの一つがバッテリーモニターIC。Liイオン電池の残量を示すこのICは、パソコン用のバッテリー残量ICとは違い、温度だけではなく電圧と電流も監視する。

電気自動車バッテリーの精密な制御は特に欠かせない。パソコンとは違い、わずか3.6Vのセルを直列・並列にずらっと並べて使うからである。100個直列に接続してようやく300数十Vになる。また電流容量を上げるために並列にも接続しなければならない。セル1個1個のバラつきを吸収するための制御が必要となる。ここにも半導体が使われる。制御系の半導体ICと、高い電圧を必要とするパワー半導体との間を電気的に絶縁するためのICも求められる。だから電気自動車用半導体の市場は大きい。

15日の日刊工業新聞は、ロームが傘下に入ったOKIセミコンダクタの技術者をロームの横浜の拠点に異動させ、電気自動車用半導体チップの共同開発を始めたと報じた。ロームが持つ、SiCパワートランジスタと、OKIが持つ車載用リチウムイオン電池のバッテリーモニターICを開発する。さらにOKIが持つ8ビット、16ビットマイコンの新製品も投入するとしている。

SiCパワー半導体は、電気自動車のエンジンとなるモーターを直接駆動するために使われるが、そのSiCパワートランジスタをドライブする半導体は、シリコンの高耐圧半導体が駆動する。さらに、それを制御するのにマイコンを使うというわけで、車載用マイコンは現在の内燃エンジンの車載用に使われるばかりか、電気自動車になっても別の用途が生まれてくる。

SiCパワートランジスタ向けのウェーハを東レ・ダウコーニングが2010年1月から日本で販売すると日刊工業は伝えている。米ダウコーニングが量産する4インチSiCウェーハを輸入するわけだが、同年6インチウェーハの開発にも着手するという。パワートランジスタはチップ面積がLSI並みに数mm角と大きいため、基板ウェーハの大口径化はコストダウンのためには必須となる。

電気自動車が実用化され、普及期を迎えるころには、夜間の電力が逆に増えるという状態を迎える。昼間、使っていた自動車のバッテリーを充電するためだ。ここにスマートグリッドが求められる。欧州でも次世代送電網「スーパーグリッド」の計画がいよいよ具体的に検討されると、16日の日本経済新聞は伝えている。

EU(欧州連合)の欧州委員会は2020年までの新たな経済成長戦略の検討に入ったと日経は報じた。スーパーグリッドの構築や運輸部門の脱炭素化が柱になるとしている。実は、日本国内には、スマートグリッドは電力事情の悪い米国だからオバマ大統領が提唱しているのにすぎず、日本では必要がない、という論調を目にすることがある。しかし、スマートグリッドの狙いは将来の電気自動車をはじめ、脱炭素社会と深くかかわっていることであり、今の状態を何とかしようという問題ではない。

スマートグリッドを否定する論調が支配的だと、送電網の分野でも日本がガラパゴス化する懸念は消えない。スマートグリッドの本当の姿を、10月27日SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー グローバルな協力・戦略で新市場を切り拓く」の中で、東京大学大学院工学系研究科の阿部力也特任教授が解き明かしてくれる。

(2009/10/19)
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