Semiconductor Portal

HOME » セミコンポータルによる分析 » 週間ニュース分析

夏のネタ枯れの中に、これからの成長に知恵を絞ろう

8月は夏休みの真っ最中であり、芸能界は騒がしいがエレクトロニクス業界は静かな平和の月である。先週も例にもれず、ビッグニュースはなかった。電機9社の4~6月期の決算発表が終わった。新聞は景気が回復している兆候であり前向きの評価をしているが、、、。

大手9社すべての企業とも前四半期よりも業績は向上したが、まだ赤字から抜け出せないでいた。これに対して海外の半導体メーカーの多くは1~3月は赤字を計上したところもあったが、4~6月には黒字転換したところが多かった。サムスンは4~6月期に黒字転換を果たし、TIは第1四半期(1~3月)に赤字には転落しなかったもののぎりぎり黒字幅しか残せなかったが、第2四半期(4~6月期)には利益率10%を超えた。利益率10%はTIにとって決して自慢できる数字ではないが、日本の電機は好調な時でさえ10%を超えない。この差について日本の大手電機はじっくり考えてみる必要がある。海外が良くて、なぜ日本だけが悪いのか。どうすれば海外並みに業績を改善できるのか。

ここまではっきりと差が出ると、「そりゃ、海外企業はできるでしょうが、日本企業にはできません」といったような言い訳はもはや通用しない。この言い訳はこれまでの大手企業、官僚的な組織でよく言われてきた。私は耳にタコができるほど聞かされた。

しかし、この言い訳をしている組織が改善され、素晴らしい業績を上げたという話は一つも聞いたことがない。この言い訳の背景にあるものは、会社がつぶれてしまうという危機感がないことの裏返しでもある。もし危機感があれば、企業の業績を上げるために「聖域」は考えないはずだからである。この言い訳こそ、「聖域」を作るための言い訳にすぎない。大手電機はこの夏休みこそ、革命的ともいうべき大幅な改革を生み出すことを考えたらいかがだろう。その後の四半期にそれを実行へ移す。もしそれを行わなければ、数年後には本当につぶれてしまいかねないと危惧を覚える。

もうひとつ気になったニュースは、液晶とビデオRAMに関するニュースである。東芝が中国で液晶パネルの合弁会社を設立するというニュースは、非常に前向きに受け取った。一方、エルピーダがキマンダの画像処理DRAM事業を継承するというニュースも前向きだと思う。液晶、DRAMとも一つのセルを大量に並べる製品であり、アジアや中国でもすぐ真似して得意になれるビジネスであり、日本で事業を行う旨みが薄れつつある製品分野だからである。

液晶パネルを中国で生産することで、大量な数量の見込める中国市場への足がかりになるばかりではなく、安く生産して世界へ出荷することも可能になる。その意味で国内に生産工場を設けず中国で合弁企業を設立する意味はある。これまでは液晶材料の改良や液晶パネルの駆動法の改良などで高速動作をさせ、きれいな画面を生み出そうと努力がなされてきた。しかし、ビデオRAMを利用すると、従来の60Hz動作ではなく120Hzや240Hzという高速に液晶を駆動させて美しい画面を生み出せることがわかってきた。となると、液晶の応答時間が遅いから、有機ELや電界放射ディスプレイを開発してきれいな画面を実現しようという魅力も薄れてくる。

ビデオDRAMには薄型液晶テレビ、プラズマテレビという従来テレビの画質を改善できるという大きな魅力がある。資金が行き詰って市場経済に生き残れなかったキマンダからエルピーダが技術を買い取り、事業を継続することはDRAMにとっても次の市場を創造するといった点で大きな意味がある。DRAMそのものは、32ビットシステムではもはや市場の拡大を期待できないからである。

2の32乗すなわち4Gバイトのアドレス空間が最大である以上、それ以上大容量のDRAMを作っても意味がないのである。アクセスできないから。もちろん、64ビットシステムへすべてのパソコンが移行するというのなら事態は全く異なり、DRAMのメモリー容量はまだまだ足りないということになる。しかし、64ビットパソコンが大きな市場になるか、これまでの取材では誰も肯定しない。

薄型テレビ市場はますます広がる。中国ではCRTから薄型テレビへの買い替えがどんどん進んでいる。家電下郷政策が後押ししており、この市場へ向けてビデオDRAMはこれから意味のある成長をうながすであろう。すなわち、安物液晶とビデオRAMで高画質のテレビを楽しめるのである。この組み合わせの時代はもうすぐそこまで来ている。

(2009/08/10)

ご意見・ご感想