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半導体製品の営業力を増強する動き、高温半導体開発とその問題点を議論する

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先週の動きの中でLSIチップとして最も気になったニュースは、日本TIが半導体の営業拠点を5倍に増やすというニュースである。ここ1〜2日ではパワー半導体の開発に向けたニュースが出てきた。パワー半導体とはいっても電気自動車市場に向けた高温動作が可能な特殊なSiCあるいはGaNによるデバイス開発だ。

半導体デバイス製品の営業力を強化するためには顧客の最先端工場や開発拠点の近くに営業所を構え、顧客エンジニアの半導体回路設計などの相談に短時間で対応し、次の開発のヒントにする。新規受注にもつなげられる。特に、TIの得意なアナログ製品の顧客は全世界で1万5000社を超える、と元TI会長のトム・エンジボス氏は3年前のインタビューで答えていた。日本にもかなりの数の顧客がいるに違いない。全国各地に顧客をサポートし、次の製品開発に生かすためには顧客のそばにいる方がその企業の力は生きてくる。

日本の半導体メーカーは営業力が弱いと、アイサプライの南川氏は指摘していたが、顧客のエンジニアと同じ視線でディスカッションするためには半導体メーカーからもエンジニアが対応しなくてはならない。それも経験豊かなエンジニアが対応する。顧客の求めるニーズを100%くみ取るためには、CPUやマイコン、ASICなどのデジタル回路の知識だけではなくインターフェースや周辺回路、パワーマネジメントもカバーするアナログの知識も必要とするからだ。

TIは、MPEG圧縮技術の開発を終え、筑波の研究所を閉鎖する。日本で研究するネタはもはや少ないと見たのだろう。その分、営業力をつなげて将来の日本市場を強化すると見るのが今回の一連の動きだろう。

6月22日の日本経済新聞では、富士電機と古河電工がGaNウェーハを使いパワーデバイスを共同で開発すると報じている。これまでホンダとロームがSiCウェーハのパワーデバイスを共同開発する計画で、日経では報じていないが、デンソーもSiCウェーハからデバイスまで自社開発している。サンケン電気もGaNパワーデバイス開発に取り組んでいる。

Si以外の材料でパワーデバイスを開発する動きが活発になっているが、気にかかることはMOS構造ができるかどうかという点で、二つの材料に分かれていることだ。気にかかるとは良い意味でも悪い意味でも注目しているということ。

すなわち、Si以外の高温動作が可能な半導体SiCやGaNはエネルギーバンドギャップが広いという特長を持つことが高温動作可能だということにつながっている。逆に難しさもあるということだ。問題点としては、Siプロセスでさえ、最初の酸化工程では1000℃を超す熱処理をすることから、SiCやGaNだと1300〜1400℃の熱処理は当然のように行われるだろうと想像できる。炉心管の準備や特殊なプロセスが必要となってくる。もう一つの原理的な問題は、バンドギャップが広いため、pn接合によるバイポーラ動作では順方向電圧が2.5V以上と電圧損失が大きくなる。すなわちIGBTは作りにくいということになる。

では、SiCやGaNデバイスはどのようなトランジスタになるか。MOSFETかJFETだろう。このうちMOSFETはノーマリオフ型のデバイスを容易に作れるが、JFETはそうはいかない。nチャンネルならゲートに負の電圧をかけなければオフしないため、バイアス構造がやや複雑になる。MOSFETの問題点は、いわゆる界面準位密度の少ないMOS界面を作れるかどうかという点だ。SiCのMOS界面、GaNのMOS界面、MOS制御するためには共にきれいな界面を作り出すことが欠かせない。

かつてシリコンのMOS界面を徹底的に解明し、きれいにし最適なプロセスを見つけるのに日本も含めた世界中の研究者が協力して学会でディスカッションを繰り返してきた。今は昔とは違って、MOS界面構造を解明するためのツールも揃ってきた。形成方法も熱酸化だけではなく、ダメージの少ないプラズマCVDをはじめとしてさまざまな方法が入手可能だ。GaN界面、SiC界面とも昔よりは早くプロセスを確立できるとは思うが、チャレンジングなテーマであることには変わりはない。だからこそ、1社で開発するのではなく、各社の研究者が知恵を出し合う学会のような組織が必要になる。

韓国では、電気自動車に向けて電池や急速充電の仕様や規格を決めるための官民協議会を発足させるというニュースがあった。仕様や規格を決める場合こそ、官が民間企業を束ねる必要がある。国家プロジェクトとしてのあるべき姿かもしれない。

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