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中国独自規格の3G携帯向けチップを作るのはSTエリクソンに決定

5月最後の週におけるニュースで最も気になったものは、中国独自の3G携帯電話規格TDS-CDMAを推進するチャイナモバイルが、携帯電話のキモとなる半導体チップを設計するメーカーにSTエリクソンを選んだというニュースだ。TDS-CDMAは中国独自の規格だからこそ、世界中のどの半導体メーカーもみな同じスタートラインにいたはずだ。日本の半導体メーカーにも同じチャンスがあったのである。しかし、、、。

中国の独自規格を織り込んだ半導体ベースバンドチップだと世界の携帯電話機メーカーが買ってくれる。ノキアやソニーエリクソン、モトローラ、サムスン、LGなど世界のトップレベルの携帯電話機メーカーに売り込む絶好のチャンスだった。ノーアウト満塁のような千載一遇のチャンスだった。残念ながら日本の半導体メーカーはそのチャンスを生かせなかった。

やはり日本の半導体メーカーの弱点はグローバル化である。グローバルのパートナーと組んで将来の製品を開発するという、今のグローバル化の波に乗れない弱さがここにも出てきた。チャイナモバイルは2009年にこの3G携帯電話を900万台、2010年には2000万台を目標としている。伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクスとスェーデンの伝統的な通信企業エリクソンとの合弁で生まれたSTエリクソンは、数年先には半導体トップ20~30社ランキングに登場するかもしれない。

日本の半導体の次のターゲットはLTE(long term evolution)でいち早くマーケットをリードできるかどうか、だろう。LTEは3.9Gとも呼ばれるが、3GのCDMA方式とは違い4GのOFDM方式をとるため、4Gにむしろ近い。今は破竹の勢いにあるQualcomm社の弱点がこのOFDM技術である。CDMAの基本特許から応用特許まで膨大な数の特許を抑えるQualcommだが、OFDM技術に関してはまだそれほど強くはない。だからこそ日本の半導体メーカーがOFDMでリードを取れるように、例えば海外の携帯電話機メーカーと組み、STエリクソンのような合弁会社を作り、LTEで世界に攻めに行く、というような積極策が求められる。

さもなければ、いろいろな人たちが指摘するように中国やインド市場に向けた、安くて誰でも携帯電話が作れるようなチップソリューションを提供する。BRICsに向けた半導体は安かろう悪かろうではない。誰でも携帯電話を生産できるほど高集積で共通仕様の専用チップである。大量生産できるため安く作れるというメリットを生かす専用のチップとなる。それを設計するためには中国やインドなどのキャリヤあるいは世界の携帯電話機メーカーとのパートナーシップが欠かせない。

いずれの場合でも将来大きな市場を生み、稼げる半導体チップを作る(設計する)ためには、世界の企業とパートナーシップを組まなければならない。これが今、半導体メーカーに突きつけられているグローバル化である。昔と違い、完成品や部品を世界に売りに行くだけで世界が認めるグローバル企業になれる時代ではない。設計段階から世界の企業とパートナーを組み、世界に売れるような仕掛けを作らなければ、もはや世界で売れないのである。

半導体チップがSoC(システムオンチップ)とかシステムソリューションを織り込んだチップに変貌してきた以上、システムの知識がなければチップは売れない。しかも市場はもはや世界にある。となると、世界の企業、コンソシアム、研究所、ユーザーなどと一緒に開発・設計するような仕組みを今からでも遅くはないから作り始めることこそ、半導体メーカーにとって最も重要なことではないだろうか。日本の半導体メーカー同士が傷のなめ合いをしている間にも、世界の半導体メーカーは世界のパートナーを求め、将来への成長シナリオを着実に実行している。

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