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グローバルなパートナーシップを組み国際競争力をつける動きに注目

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先週のニュースでは、米国のテキサスインスツルメンツ(TI)が筑波の研究所を6月末で閉鎖しインドと米国へ設計部門を移転させるというニュースと、東芝が携帯電話機を国内で生産せず海外のEMS(製造専門のサービス会社)に委託するというニュースに注目した。共に共通項はグローバルなパートナーシップを強化するという点である。国内だけで開発、設計、生産すべてを受け持つことは国際競争力の点から難しくなってきた。

TIが筑波の研究所を設立したのは1991年。当時は、映像圧縮技術の一つであるMPEG-1および2の基本技術が日本にあることから、日本に設計開発することは大きな意味があった。同時にTIはそのころから既にインドを活用してデザインセンターを開き、LSIのデザインを行っていた。TIの研究開発部門や設計部門の役員クラスにインド人マネジャーがいたこともインドへの進出を容易にした。当時はインターネットが普及していなかったために衛星通信回線を利用してインドとテキサスでデータのやり取りをしていた。しかし、MPEG技術は日本にあったから日本にも開発拠点を置いた。

今回TIは、設計開発の拠点をインドと米国へ移す。映像圧縮技術では最近は圧縮率の高いH.264が主流になりつつあり、日本の強かったMPEG技術にはもはや価値はなくなったと判断したのではないかと推察する。インドの設計力を利用しているのはTIだけではない。IBMもしかり。欧州のSTマイクロエレクトロニクスもインドを積極的に活用し設計しており、国際的な競争力を強めてきた。特にSTマイクロの設計力に対するグローバル化はインドだけではなく並列処理コンピュータでかつて一世を風靡したトランスピュータの英国インモス社を買収し、そこの技術をもとにSTの原動力となったセットトップボックス用LSIを開発してきたという背景もある。

東芝がEMSを利用するという決断は、何でも自社で作るのではなく、設計を国内で行ったら量産を海外のEMSで安く行うということである。東芝がどのEMSを使うのは明らかではないが、EMSは製造だけを受け持つサブコントラクタであり、自社ブランドは持たない。米国の代表的なネットワーク企業であるシスコシステムズ社をはじめとする多くのコンピュータ企業がEMSを利用して低コスト化を実現し国際競争力を高め、世界中へ製品を輸出してきた。

EMS企業の最大手は台湾のFoxconn Technology Groupである。実は1992年に中国の深センに進出したばかりのFoxconn(当時はHon Hai Precision鴻海精密と呼んだ)を取材したことがある。当時はまだEMSという業務概念が出来ておらず、Foxconn自身も電子機器のすべてを製造してはいなかった。パソコン用のケーブルやコネクタを生産していた。マウスやキーボード、ディスプレイ、HDD用などのコネクタは現在のUSBと違い、みんなバラバラだった。まずIBM PC互換機用のケーブルからはじめアップルのPCケーブル、コネクタへと手を広げ、そしてマザーボード、PC組み立てと進み、EMSを手掛けるようになった。

工場は深センから上海へと次々と拡大していった。原価に占める人件費比率の高いEMS産業だからこそ、中国やそして東欧など人件費の安い地域で生産する意味がある。2004年の米Electronic Business誌の調査で台湾Foxconn社一人当たりの売り上げが2億円以上とすさまじい勢いだったが、まだ世界の頂点には達していなかった。世界のトップに立ったのは2006年か07年だと記憶している。2006年までの平均成長率は50%を超えている。世界同時不況にさらされた2008年の売り上げでさえ、19.4%増の618億米ドル(6兆円)と右肩上がりの成長を見せた。

TIにせよ、東芝にせよ、共通することはグローバルのパートナーシップを組み、モノづくりを推進しているという点だ。これまでの日本でのグローバル企業と言われるようなソニーにしても販売などものを売る地区が海外であることが多かった。海外生産する場合には自社工場で作るだけで、必ずしも現地企業との協力やパートナーシップを組んできたわけではない。多くの日本企業は、海外進出では海外に日本村を作ってきただけにすぎず、大手工場が進出すると国内部品メーカーも進出し、サプライチェーンが確立すると銀行までが日本村に進出してきた。その中での閉じた取引を行ってきただけにすぎない。

海外企業とのパートナーシップという点では日本企業は経験がまだとても少ない。今回の東芝をはじめとして本当の意味での海外企業とのパートナーシップを組み、成功することで日本企業のグローバル競争力が養われていく。ただし、EMSを利用すると言っても試作ラインまで国内から撤去してはならない。海外のファブレスと言われるメーカーは、試作ラインだけはしっかり持ち研究開発を行っている。実際にモノを作って見せなければ海外のパートナーや投資家は納得しないからだ。システム仕様、設計、試作などは国内に持ち、量産だけを海外メーカーに任せるという形をとることで国内メーカーは新製品の開発に専念できる。


(2009/05/25 セミコンポータル編集室)

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