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「もはや回復のフェーズに」、共通する業界アナリストの見方−SPIフォーラムから

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「不況、不況とあおり過ぎ、もはやモノが足りなくて生産増強している所もある、もう不況の底は打った」といった景気状況がはっきり見えてきた。セミコンダクタポータルが主催したSPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー この不況はいつ回復するか、何を準備しなければいけないのか」では、ドイツ証券副会長の武者陵司氏、UBS証券アナリストの山本義継氏、アイサプライ・ジャパン副社長の南川明氏という日本を代表するアナリストが現状と未来について語り、新しいビジネスモデルで成長を続けるクアルコムジャパンの前田修作氏がその戦略を明かした。

SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー この不況はいつ回復するか、何を準備しなければいけないのか」


米連邦準備理事会(FRB)前会長のグリーンスパン氏が今回の不況を、100年に一度の大不況と表現し、以来さまざまな人たちが同じ表現を使っているが、本当だろうか。ドイツ証券の武者副会長は、現在の状況を世界的なマクロ経済からみて1930年前後の世界大恐慌と比較した。それによると大恐慌時は株価暴落から700日かけて株価は10%近くまで下がったが、今回はまだ-53%にとどまっている、ところが倒産確率に相当するリスクプレミアムは700%というとてつもない数値に上っている、というデータをみせた。大恐慌時の失業率は25%もあったが、今でさえ10%にも行っていない。

ということは「時間と経済指標とのギャップがあると思う。このままだと大恐慌の時よりもひどくなるはずという結果になる。それほどひどい不況だろうか」と疑問を呈し、「これは実感が間違っているか、市場が間違っているか、どちらかだろう。実感は正直だから市場が壊れていると考えるのが自然だろう」とした。だからこそ、壊れた市場の数字をベースに悲観的に考えることは間違っていると、切り捨てた。

今回の不況を武者氏は「恐怖が恐怖を呼び、それが連鎖して金融からモノづくりの世界にまで影響を及ぼしたもの」と位置付けた。これを、理性>恐怖という図式に戻れば、この不況は回復の方向へ転換するとした。実際この3月はこの転換点だったという。

その根拠を三つ挙げる。一つは社債市場のリスクプレミアムが低下してきた、すなわち金融市場が戻り始めたこと。二つ目は米国住宅価格が底入れしたこと、そして三つ目は実需の底入れ、を挙げた。住宅価格と自動車産業は下がりすぎた。

さらに米国の消費者が過剰な借金でモノを購入してきたと言われているが、これも正確ではないとした。米国の貯蓄率と家計の純資産の年次推移を見せ、貯蓄率は下がってきているものの純資産は急速に上がってきているため、米国人は債務よりも財産の方が多いことを示した。


SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー この不況はいつ回復するか、何を準備しなければいけないのか」


恐怖が恐怖を呼んで縮こまりすぎたのは米国よりもむしろ、日本の方である。日本の鉱工業生産指数が2月に対前年比で-38.48%と大きく減少したのに対して、米国では-11.19%しか下がらなかった、というデータも示した。

続いて登場したUBS証券の山本氏は、「今や回復期に入り、皆さんの会社で部門によっては生産が追い付かない所もあるでしょう」と前置きして、2000年のITバブル崩壊と今を比較した。最大の違いは、武者氏が指摘した、恐怖が恐怖を生んで生産過小になってしまったことと全く同じだとした。

ただし、2000年は携帯電話セットが伸びそうだから、それ相応の半導体チップを生産し、それに必要なウェーハを作り、製造装置へ投資した、という考えで、それぞれの分野の成長率を少しずつ伸ばしていった。しかし、今回はその逆で、「不況が来そうだ、10-12月の小売りは-8%に減少しそうだ、だから電子機器セットは生産を抑えようとして-16%になり、では半導体チップの生産も安全を見てもっと減らし-22%に減り、使用するウェーハの生産も抑えようとして-35%になった」という逆の考え方をした。減り方が川上へ行くほど大きくなってしまったと指摘する。


SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー この不況はいつ回復するか、何を準備しなければいけないのか」


第1四半期にICの生産を絞りすぎたため、第2、第3の四半期が対前四半期比で二ケタ成長しなければ予想のマイナス成長の数字にすら達しなくなると指摘する。同氏の指摘は実は、米国のアナリストBill McClean氏が発行するIC Insightsの見方とも一致する。ノキアは2009年の見通しとして対前年比で-10%の出荷台数と予測したが、第1四半期の落ち込みがあまりにも激しかったために、第2四半期からは前四半期比で成長させていかなければ、携帯電話機の予測値の-10%に達しない。緩い成長だとしても、第1四半期の出荷台数に対して第4四半期のそれは実に30%成長することになる。

半導体業界を代表するアナリストであるアイサプライの南川氏は、2008年第4四半期における在庫状況を製品別に調べたところ、やはり半導体の在庫が異常に多いことがわかった。やはり、在庫が減らしすぎた反動がやってきて、これからは生産を増やす方向が見えていると述べた。


SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー この不況はいつ回復するか、何を準備しなければいけないのか」


同氏は、これからはむしろ不況というより、日本の半導体メーカーの弱点を認識し、それを克服していくべき方策について述べた。半導体売上を伸ばしていくためにはやはりグローバル化しかない。それも2000年ころと今とは半導体のサプライチェーンがかなり違ってきていることを挙げた。かつてはEMSやODM経由は10%にもみたなかったが、今や半導体メーカーや代理店から出てくるチップの30%がEMS/ODMを経て顧客のもとへ届く。このルートに乗せることが重要と述べた。

さらに、日系半導体メーカーの特徴として、営業・マーケティング比率が低く、しかもグローバルサポートが弱い、ことをグラフとして見せた。今後、環境にせよ、エネルギーにせよ、営業力およびグローバル化の強化が必須だとしている。

ファブレス半導体ながら半導体メーカートップ8位に入ったクアルコムの日本法人クアルコム ジャパンの前田氏は、クアルコムのビジネスは新しい無線技術を開発し、それを提供することがビジネスの要であるとした。ライセンス供与とロイヤルティ収入、半導体チップ販売、という2大ビジネスを推進している。ただし、携帯電話の3G(CDMA)に特化したビジネスであるため、まだGSM方式の強い欧州が今後の成長市場になる。

日本では3G携帯がもう飽和してきているが、日本で起きていることは世界でも起きるようになるため、これから世界では3Gへの準備をする。日本では3Gの次を見据える。


SPIフォーラム「半導体エグゼクティブセミナー この不況はいつ回復するか、何を準備しなければいけないのか」


5〜10年後を見据えると、OFDMデジタル変調技術を使うLTE(long term evolution)へと進むわけだが、日本では1.5GHzの周波数を割り当てられている。まだ日本しか使えない方式であるからこそ、世界でも使えるようなマルチバンドソリューション半導体がカギを握ると見る。

さらにこれまではキャリヤ(NTTドコモのような通信業者)主導のもとで携帯電話を生産してきたが、iPhoneからビジネスモデルが違ってきた。キャリヤが携帯電話を売らずにAppleという携帯電話メーカーが売り、しかもAppleはアプリケーションのストアを作り、コンテンツを消費者に使わせるようなビジネスをしている。ゲームをはじめとするさまざまなアプリケーションソフトをAppleが販売する。このためキャリヤの通信網はあまり使われない。

同様に日本ではMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体サービス事業者)のビジネスモデルへと移行するのではないかとみている。これはトヨタのG-Bookのようにクルマに関する情報をKDDIのネットワークをトヨタが借りてサービスするわけだが、使用者はトヨタへ支払うというビジネスモデルだ。キャリヤ→携帯電話機メーカー→半導体メーカーという階層に今いるが、サービスを提供することでキャリヤの上に来るようなビジネスモデルを作ろうとしている。

こういった新しいビジネスモデルの構築は、半導体ビジネスにも応用することを考える企業がこれからの勝ち組になれそうだ。


(2009/04/22 セミコンポータル編集室)

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