多結晶シリコンの供給均衡、半導体産業の成長に重要な鍵
サプライサイドから見た半導体産業市場の短期予測
ICT リサーチ会社ジェイスター株式会社(代表取締役:豊崎禎久氏)は、多結晶シリコンの供給能力の視点から、2006 〜2007 年の半導体産業市場規模の予測シミュレーションを行った。その結果、半導体向け多結晶シリコンと太陽電池向け多結晶シリコンが、現状と同様に分配された場合、2006 年の半導体産業市場の各成長率は、2005 年の成長率並みの6%台に止まるという。
一方で、太陽電池向け供給が増加した場合は、2006 年で3.6%、2007 年では0.3%と停滞する恐れがあるという。現状の半導体・太陽電池向け供給体制の均衡が崩れた場合、半導体産業の受ける影響は大きいと警鐘した。
■需要を満たせない多結晶シリコン供給能力
半導体は、多結晶シリコンが原料となる。ジェイスターによると、2005 年の多結晶シリコン世界市場は、約3 万トンの規模にあり、その供給能力とほぼ同等である。そのうち、約2 万トンが半導体に、残り約1 万トンが太陽電池に消費された。多結晶シリコン世界市場は、上位4 社で全体の約75%を占める。
多結晶シリコン業界は、需給が逼迫していることを理解している。最大手のヘムロック社(米)は、2008 年には14,500 トン、ワッカー社(独)は、2007 年には9,000 トンの供給能力を備えることを現段階では述べている。最近では、2006 年4 月に、住友チタニウムが多結晶シリコンの400 トン増産を発表した。多結晶シリコン業界は、2007 年には、約40,000 トンの供給能力を備えるだろう。これは、2005 年から年率11%で成長することとなる。
但し、多結晶シリコンを必要とするのは、半導体だけではない。太陽電池の需要が増えている。太陽電池向け多結晶シリコンの消費は、2001 年以降、年率約45 %の成長を示している。さらに、最近でも、太陽電池生産最大手のシャープが欧州での生産倍増、三洋電機は、200 7 年度に100億円を投資して、太陽電池セルの供給能力を100MW 増大するという。この趨勢では、太陽電池向けの多結晶シリコン需要は、2007 年には、2005 年から倍増して20,000 トンを超える勢いである。
さらに、REC(Renewable Energy Corp.)社 は、2005 年8 月にコマツの米国子会社であるASiMl(アドバンスト・シリコン・マテリアルズ:Advanced Silicon Materials LLC)社を買収し、供給能力を約2,300 トンから、5,000 トンを超えるまでに成長したのだが、REC 社は元来、太陽電池向けに多結晶シリコンを製造している。ASiMl 社の契約を引き継いでいるため、現在は、半導体向けにも多結晶シリコンを供給しているが、数年内に太陽電池向けにシフトすると述べている。
例えば携帯電話市場の2006 年の成長は、2005 年の約8 億台から9 億台強へ、薄型テレビ市場も、約3,000 万台から5,000 万台への成長が見込まれている。半導体産業は、2007 年には、供給の制約を受けながら、需要の増大に対処する難しいポジションに陥るだろう。
■考えられるシナリオ−半導体産業の成長、2007 年には停滞する恐れも
ジェイスターは、多結晶シリコンの供給能力の観点から、半導体市場の短期予測(2007 年まで)シミュレーションを試みた。予測のための半導体産業の将来シナリオは、以下である。
【半導体産業に起こりうる将来シナリオ】
- 原油価格の高騰: 原材料の高騰
- 材料費の上昇: 多結晶シリコンの供給不足による材料費の高騰
- 固定費の上昇: 工場稼働率の低下
- 半導体製品単価の低下: 工場稼動率を上げるため、単価を下げて受注
この半導体産業の将来シナリオ及び多結晶シリコンの供給能力を前提に、予測シナリオを2 つ用意し、半導体市場予測を行った。
【半導体市場 予測シナリオ】
シナリオ1 (現状維持ケース) | 半導体・太陽電池向け多結晶シリコンの分配が一定 (2005 年と同様:半導体に2/3 、太陽電池に1/3) |
シナリオ2 (太陽電池漸増ケース) | 太陽電池向け多結晶シリコンへの分配が漸増 (2006 年で35%、2007 年で4 0%が太陽電池へ) |
シナリオ1 のケースでは、2006 年で6.3%の成長となり、2005 年の成長ペースとほぼ同等だが、2007 年まで成長は確保される。しかし、シナリオ2 のケースでは、2006 年で3.6%、2007 年では0.3%と停滞する恐れがある。現状の半導体・太陽電池向け供給体制の均衡が崩れた場合、半導体産業の受ける影響は大きいと考えられる。
(出典)WSTS のデータを使用しジェイスター(株)作成
■半導体をめぐる業界の対処法として
ジェイスターが警鐘するのは、これまでの半導体産業は、シリコンが無限にあるとの前提に立っていたが、今後は、資材調達をどのように戦略的に確保するかが問題となるということである。また、電子機器メーカーは、多結晶シリコンの需給まで見据えたサプライチェーン管理が必要となるとも見ている。多結晶シリコンメーカーは、可能な限り増産への努力が必要となる。安定的に原材料を確保したい電子機器/半導体企業は、企業買収を試みる可能性が高い。多結晶シリコンメーカーとの協業をいかに舵取るかが、今後の半導体事業での成功に従来以上に大きな影響をもたらす可能性が大きい。
前述のグラフに示すように、多結晶シリコンの供給は日本以外のサプライヤーに依存するところが大きい。日本メーカーの多結晶シリコンの増産にむけて努力が進められている。6月30日には、新日本製鉄はが、事業会社「NSソーラーマテリアル」を設立、太陽電池用の多結晶Siの製造と販売に乗り出すことを発表した。2007年度下期から月産約40トンで生産を開始する。生産した多結晶Siは,日本の太陽電池メーカーへの供給を想定している。