2020年までのトレンドの指針となるCiscoのレポート
Cisco Systems社は、通信ネットワークのトレンドを毎年改定して発表しているが、今年もモバイルネットワークの2015−2020年の見通しを発表した。世界のモバイルネットワークのトレンドを7つ紹介している。より賢いモバイルデバイスの採用、データレートの増大、IoTの拡大、Wi-Fiの増加などがある。このレポートはモバイルの指針を与えている。
図1 モバイルネットワークにつながるデバイス 出典:Cisco VNI Mobile 2016
まずモバイルデバイスのハードウエアそのものは、2015年から2020年にかけて年率平均(CAGR)8%で増えていく(図1)。20年においても最も大きな割合を占めるものはやはりスマートフォンである。スマホは15年にモバイルデバイス全体の32%をしめていたが、20年には40%に達する。最も大きく伸びるのはM2M(machine to machine)通信モジュールである。モバイルデバイスの中に占める割合が15年は8%だったのが20年には26%にも達する。IoTの中の代表的なデバイスだけに当然といえば当然かもしれない。代わって大きく落とすのは、ガラケーのようなスマートではない携帯電話で、15年には50%を占めていたが、20年にはM2Mに抜かれ、21%に減少する。
モバイルネットワークを行き来するデータ量(トラフィックと呼ぶ)では、2015年の3.7EB(エクサバイト=10の18乗バイト、すなわち10の9乗ギガバイト)だったが、2020年にはさらに1桁大きな30.6EBと予測している(図2)。年率平均にして、毎年53%ずつ増えることになる。トラフィックをけん引するのはやはりスマホである。全体のトラフィックに占めるスマホの割合は15年でも76%と圧倒的に多いが、20年にはさらに増え、81%を占めるようになる。M2Mのトラフィックはそれほどでもなく15年の3%が20年7%に増える程度で、タブレットでさえ15年の9%から20年に8%に下がる。ガラケーやモバイルPCなどはずっと低い。
図2 モバイルネットワークを流れるデータトラフィックはますます増加 各デバイスのカッコ内の数字はそれぞれ2015年、2020年における割合) 出典:Cisco VNI Mobile 2016
高速のデータレートを実現するモバイルネットワークの進歩は、アナログの第1世代(1G)からデジタルの第2世代(2G)、CDMA方式で高速化した第3世代(3G)、OFDM方式でさらに高速化したLTEの第4世代(4G)へと進んできた(図3)。2020年ではまだ第5世代(5G)は普及していないが、研究は2015年から本格的に立ち上がっている。
図3 通信方式を変えながらデータトラフィックに対応していく 縦軸は接続されるデバイスの数 出典:Cisco VNI Mobile 2016
世界のモバイルネットワーク方式に占める4G(LTE)の割合は15年にわずか14%しかなかったが、20年には40.5%に増え、3Gを抜くと予想されている。これまでは世代ごとにデータレートを上げてきたが、IoTの時代にはデータレートよりも低消費電力化と広いカバーエリアがより重要になる。このため、ナローバンドで低消費電力のIoTデバイス向けに、NB(Narrow Band)-IoT規格が2月のMWC(Mobile World Congress)で議論された。図3でLPWA(Low Power Wide-Area)と書かれた規格の一つがまさにNB-IoTである。
図4 M2Mの伸びは年率38% 出典::Cisco VNI Mobile 2016
IoTデバイスの一つM2Mの伸びについてもCiscoは予測を立てている(図4)。M2Mは現在も電力・水道・ガスなどのメーターをはじめ、工場のオートメーションやHEMS/BEMS、クルマ(日産の電気自動車リーフにも)、ヘルスケアなどに使われているが、データレートはそれほど速くない。だが、その数量は飛躍的に伸びそうだ。Ciscoの予想では、M2Mの接続数が2015年に6億100万だったが、2020年には31億にもなる。約5倍の増加は年平均38%増に相当する。
データレートが遅いからといって今さら2Gや3Gに後戻りすることはない。M2Mに適したネットワークがある。NB-IoTネットワーク規格はその一つである。LTEの次の5Gについても、データレートを10Gbpsに高めるだけではない。IoT装置から装置へ、センターから装置へデータを送るのにデータの到着が遅れてはならない用途もある。特にクルマでの応用だ。レイテンシが1ms以下と規定している5Gでは、クルへのM2Mの搭載が促進されるだろう。
ウェアラブル端末についても予測しており、これは年平均44%という高いスピードで伸びていくと見ている(図5)。ウェアラブル端末は文字通り身に着けて使うものであり、スマートウォッチやヘッドアップディスプレ(HUD)、ヘルスケアトラッキング、ナビゲーションデバイス、スマートクロージングなどのデバイスがある。2015年に9700万台から2020年には6億100万台が接続される。ただし、ウェアラブル端末はBluetooth LEやWi-Fiなどでスマホとつなげ、スマホがモバイルネットワークとつながっているため、間接的にインターネットとつながるデバイスといえる。今のところM2Mモジュールにはウェアラブル端末を含んでいない。
図5 ウェアラブル端末の接続数予想 出典::Cisco VNI Mobile 2016
Ciscoは、さらにモバイルネットワークへの直接接続とWi-Fiを介したインターネット接続、オーディオやビデオ、データ、ウェブなどコンテンツとトラフィックの伸び、地域別、OSの違い(iOSとAndroidなど)などに関してもその成長率を調べている。
レポートURL;
Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update, 2015–2020 White Paper