セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

携帯電話端末依存からの脱却を目指し、品種を拡大していくTI

|

米テキサス・インスツルメンツ社は、DSPビジネスを医用や車載向けなどエマージング市場に拡大し、アナログ製品の生産能力を2008年1Qから2009年1Qまでの1年間に29万枚から34万枚に拡大させることを、このほど発表した。DSPは2008年4Qから2009年1Qにかけて4つの製品シリーズ、15品種を順次、市場へ投入していく計画である。いずれも従来の同社製品と比べ性能を確保しながら消費電力を1/2程度に減らしたものになる。

DSP
今回発表された事業戦略は、今後の注力分野としてDSPとマイクロコントローラの組込プロセッシングとアナログを位置付けている。この発表を、携帯電話事業に傾倒してきたTIのDSP関連ビジネスモデル修正の表れと見ることはできないだろうか。

WSTS(世界半導体市場統計)統計によると、2006年の世界半導体市場規模は2,477億ドルで前年比8.9%であった。TIは、この平均的な成長率よりもずっと高い前年比16%増の142億ドルと過去最高の売上を享受している。事業別売上比率としては全半導体事業の40%をアナログIC関連ビジネス、40%をDSPが占めた。しかし2007年は世界的に成長率が鈍化したものの前年比3.2%増に成長したが、TIは売上を前年比3%減の138億ドルと落とした。

TI組み込みプロセッシング売上推移
右の表ではDSP売上(赤部分)は2006年から2007年にかけて横ばいで推移しているように表されている。携帯電話端末を除いたグラフである。
携帯電話端末込みの事業別売上比率では、2007年は全半導体事業の40%を占めるアナログIC関連ビジネスが+1%増、同38%を占めるDSP関連ビジネスは-2%、その他は-12%と落とした。

「TIの業績はノキアの業績に大きな影響を受けていた。ノキアが好調ならTIも好調だが、ノキアが不調だとTIも不調になる。ここがTIの弱点だ」(TIをよく知るTI出身の米国人エンジニア)。この元エンジニア氏の予感は的中し、ノキアが3Gの開発をSTマイクロエレクトロニクスに発注したことで、TIの売上は落ちた。TIがノキアに頼りすぎだったDSPビジネスを見直し、製品のポートフォリオを広げていく方向に換えたことは容易に想像がつく。これが今回のビジネスモデル修正に至った背景だといえよう。

EETimes Japan(http://www.eetimes.jp/contents/200708/23706_1_20070814170500.cfm)によると、Forward Concepts社の社長Will Strauss氏は「今後Nokia社は主に、Broadcom社と独Infineon Technologies社、STMicroelectronics社、米Texas Instruments(TI)社の4社からベースバンド処理チップの供給を受ける見込み。TI社は今後も引き続き、Nokia社にベースバンド処理チップを納入する主要ベンダーとしての座を維持するだろう。ただし、Nokia社との取引規模を縮小せざるを得ないことは間違いない」と言い切っている。

携帯電話一本槍からの脱却へ向けて踏み出した一歩の成否を占う低消費電力DSPのラインアップは以下の通り。


低消費電力DSPのラインアップ


消費電力の低い固定小数点DSPのC550xは、従来の同社DSPであるC55xシリーズにFFT(高速フーリエ変換)コプロセッサを集積し、さらに待機時の消費電力が6.8μWと低く、動作時でも46mW程度ですむため電池動作の携帯型のオーディオ機器や医療モニターなどに向ける。2009年第1四半期出荷を目指す。

もっと高精度が要求される電子楽器や音響機器、産業用テスターなどの分野には、24~32ビット浮動小数点DSPのC674xを用意する。周辺インターフェース回路を充実させた上で従来のC67xシリーズよりも1/3の消費電力に抑える計画だ。2008年第4四半期の出荷を目指し、単価を100個購入時で11ドル以下にする予定である。

演算性能を上げGUIを充実させた固定小数点DSPがC640xとOMAP-L1xである。共に最高性能2400MMACの積和演算処理能力があり、液晶ディスプレイのGUIを使うための周辺インターフェース回路を集積している。OMAP-L1xはさらにARMコアも搭載しており、ARM+C64xに加え、ARM+C674x、ARM+オーディオコプロセッサという3つの組み合わせが可能なチップとなっている。無線機などの仕様をソフトウエアで変えられるソフトウエア無線に対応する。主に政府・軍関係の無線機への応用を狙う。

アナログでは、4つの基本プロセスを使い、毎年500品種もの新製品を発表していく。高性能アナログプロセスのHPA07は0.25μmで、高精度なアンプやデータコンバータを製造する。BiCom3プロセスは高速・高周波対応でありSiGeによる1GHz動作のnpn/pnpバイポーラトランジスタを集積できる。AnalogC05プロセスは0.25μm/0.18μmの高集積に向いたプロセスでミクストシグナル回路に向く。高耐圧トランジスタを集積するLBC7プロセスは最先端のDEMOS技術を使い、耐圧40V/80V/100Vといった回路を集積できる。加えて、パッケージでも1チップインテグレーションしにくい応用にはSiPパッケージで対応する。

引き続き好調なアナログ分野はこれまで急増する需要に応えるために継続的にキャパシティを拡大しており、美浦(日本)、フライジング(ドイツ)、DMOS5(ダラス)の3工場において生産能力拡大を計画・遂行中である。2005年20万枚(四半期ベース)の生産量から2009年初頭には35万枚に迫る年平均15%の勢いで推移している。

後工程においては、QFNパッケージ中心に生産能力拡大のための組立て/テストの新工場をフィリピンのクラーク工業団地に建設中であることも発表された。フットボール場14個分という総面積77,000平方メートルの広大な敷地から年間120億個が出荷される予定だ。この工場は環境対策を進める計画で、省エネは言うまでもなく、水や薬品のリサイクル回収処理、ごみの分別など外部への廃棄物は使用する材料の0.1%未満に抑えるとしている。2008年度の設備投資額は、約9億ドル(2007年度は約7億ドル)の予定で注力分野アナログへの積極姿勢が伺える。


(セミコンポータル編集室 林 真紀)

月別アーカイブ