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SPI主催 半導体エグゼクティブフォーラム・レポート(2)

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東芝執行役上席常務、セミコンダクター社社長齋藤昇三氏による「東芝の半導体ビジネス戦略〜攻めの経営〜」の基調講演は、NANDフラッシュの戦略へと続く。以下、NANDフラッシュ、システムLSI、ディスクリートの各戦略について述べている。

コスト競争力強化
 徹底したコスト削減による競争力強化と収益確保が重要である。このためには、他社に先行した微細化がキーだと考えている。現在は57nmであるが、43nmは今月から出荷する予定だ。続いて、3×nm、2×nmと次々と開発して行く。
 また、超多値化技術の開発を推進する。3ビット/セルは2008年3月に量産を開始し、4ビット/セルは現在開発を進めている。さらに、CRのスループット向上が重要だ。四日市工場の第3製造棟の生産能力は、15万枚/月であり、第4棟を昨年から稼働させているが、第4棟の生産能力は、第3棟の1.4倍で21万枚/月になる。マーケットの状況により立ち上げ量は変わるが、2009年中にフル生産能力になる予定だ。これにより、四日市工場全体では、合わせて37万枚/月の生産能力となる。
 しかし、今後の市況を考えるとこの生産能力では足りなくなると予想しているため、さらなる生産能力向上を計画した。1年議論した結果、今回は5棟と7棟を同時に建設することになった。5棟は、四日市に、7棟は岩手に立てることを決定した。ただしまだ時期は、明確ではないが、これらの新棟は、2009年春には着工し、2010年から生産したいと考えている。また、サンディスクとは、4棟まで共同生産をしたが、5棟も一緒に生産することが決まっている。しかし、7棟に関してはまだ決定はしていない。
 このように、製造生産能力を増やすことでさらなるコスト力を付ける。


コスト競争力の強化

図3 コスト競争力の強化


 上の図は、東芝の微細化のロードマップである。現在は、57nm、17GBが主流だが、次には43nm、32Gの出荷をそろそろ開始する。この図に示すように、ロードマップ上は、74GBまでの線が引かれており、フローティングゲートタイプのNANDフラッシュで、そこまでは行けると思っている。
 微細化だけでコストダウンができるかは分からないが、新規設備には新材料を取り入れ、可能なところまで現状の技術で微細化する。今後フローティングゲートタイプの微細化は難しいかもしれないが、年率50%のコストダウンに耐えられる技術を開発する予定である。


NANDフラッシュの応用別市場推移

図4 NANDフラッシュの応用別市場推移


 上の図にNANDフラッシュのアプリケーション別市場推移を示す。現在NANDフラッシュの市場は、いろいろな分野で使われており、2007年から2010年におけるCAGRは133%の伸びを示している。現在東芝は、デジタルカメラ、オーディオ/PMP、携帯電話、デジタルコンシューマ、USB、PC市場に注目している。また、内蔵型マイクロSDの需要が増えて行くと予想している。マイクロSDは、USBにも、携帯電話やオーディオに使え、さらにビデオレコーダの動画にも使われている。
 さらに、もう一つのキラーアプリとしては、「SSD(固体ディスク)」が挙げられる。フラッシュを始めた時には、HDDをいつか越えたいと思っていたが、SSDでその目標にもう一度チャレンジしたい。出荷の初期段階では、価格が高いため数量は少ないと思うが、2010年頃にはリーズナブルな値段になり、低価格になればユーザーは使ってくれると思う。このことから、SSDには、2010年で25%程度の伸びを期待している。つまりこの当時、携帯などが飽和状態となり、SSDの市場が来ると予想している。


新アプリケーションの拡大(SSD)

図5 新アプリケーションの拡大(SSD)


 HDDと比較したSSDの特徴は、重さが1/3、衝撃耐性は3倍、アクティブモードでの消費電力は1/3、アイドルモードでは1/7である。SSDの利用により、バッテリの時間が延びる(図5)。
 SSDは、当初SLC(1ビット/セル)技術で開発していたが、最初からNAND技術を用いている。現在は、32、74、128Gが出荷されている。書き込み速度は最大40MB/sであり、HDDの1から2倍の性能を持ち、読み出し速度に至っては100MB/sの高速化を実現し、HDDに比べ2.5から5倍の性能差である。このような高速化により、Windowが、現在の1/3のスピードで立ち上がることになる。


東芝SSDモジュールの外観

図6 東芝SSDモジュールの外観


 図6に、SSDモジュールの外観図を示す。8段スタックしたBGAを8個並べることにより、127GBを実現した。チップを多層にする技術に特徴がある。従来のウェーハ作りから、ソリューションまで半導体メーカーが提供する方向に軸足が移っている。

システムLSIビジネスでも先端技術
 システムLSI事業の戦略は、下記である。
1)プロダクトポートフォリオの最適化による事業拡大
2)技術先行性の維持と開発効率向上
3)製造力の強化
 先端技術の維持は重要であり、75nmの次に45nm、40nm技術を先行する。32nm以降の世代では、IBMと共同基礎研究を行い、さらに他社とのアライアンスを組みながら生産技術に繋げていく。日本でのインテグレーションでは、NECエレクトロニクスと共同開発を行う。
 製造では、大分の300mmクリーンルームの生産能力の拡大を行い、後工程は、海外へ拠点を移す等のアロケーションの最適化を図る。また、ソニー長崎との新たな協業体制構築を行う。


システムLSI事業の2009年のビジョン

図7 システムLSI事業の2009年のビジョン


 システムLSI事業における2009年のビジョンは、世界市場でのトップ3入りを目指すことである。このためには、クリーンルーム生産能力の拡大が必要であり、さらに、同時に注力製品への集中を行う。しかしながら、IDMモデルは今後も維持して行く。
 伸ばしたい技術の1つは、イメージセンサーである。現在この分野では世界市場でトップを維持している。今までは、良いチップを作ることに専念し、かなり実力が付いてきた。しかし、イメージセンサーを用いてカメラにするためには、モジュールにしなければならない。今までこのモジュール化は外部を利用していたが、そろそろ東芝内に取り組みたいと考えている。つまり、モジュールまで提供するCSCM(チップスケールカメラモジュール)を、東芝のクリーンルーム中で一貫製造するのだ。
 従来モジュールは、ワイヤーでボンディングし、これにカメラを付けていた。この製造方法の場合、チップ製造後にゴミの問題が生じるため、なかなかコストダウンができないという問題があった。これを、貫通基板で直接ハンダボールを付け、光学レンズも直付けし、全てクリーンルーム内で製造を行うことでコストダウンと性能向上が図られる。つまり、CSCMの特徴は、クリーンルームでの一貫製造とソケットが不要なため、コスト的にも有利なことである。
 先端SoCの主力製品としては、「SpursEngine」だ。ソニーとCellを開発して来たが、このCellの技術を用いて画像処理や認識をリアルタイムで処理でき、この機能に特化した低消費電力なチップを開発した。デジタル家電やPCの複合製品に搭載する予定である。
 例として、「顔deナビ」をここでは紹介する。この機能は、映像コンテンツの中の出演者の顔を自動的に抽出し、抽出された顔のデータをクリックするとその場面から再生できるアプリケーションである。映像コンテンツを処理すると、通常のプロセッサでは何時間も時間を要したが、SpursEngineを用いると瞬時に処理ができることが特徴だ。映像処理に特化したプロセッサだといえる。
 大分工場の生産能力の拡大を目的として、ソニー長崎を約900億円で購入した。今後は、32nmのプロセスが重要であり、既にIBMとの基礎研究を行っている。また、イーストフィッシュキルのIBMキャンプでインテグレーションを行い、日本ではNECエレクトロニクスとアライアンスを組んで量産技術を確立している。そして、この32nmプロセスを大分や長崎に展開し、IDMとしての先端技術を確立して行く。

ディスクリートビジネスも主力製品でトップへ
 ディスクリートデバイスの事業戦略は、以下のとおりである。
1)事業規模の拡大と世界No1シェアの維持
2)継続的、安定的利益の創出
3)最適投資の実行によるタイムリーな生産能力の拡大
 東芝は、ディスクリート分野では、世界No1のシェアを維持している。しかしながら、個々のデバイスの順位は3位や4位に止まっており、総出荷数量で1位の座を得ているだけである。今後は、主力製品分野で世界No1を目指したい。
 ディスクリートの分野では、新しい製造装置を導入していなかった。しかし、昨年加賀東芝に新棟を建設した。また、集中と選択の一貫として、後工程はタイなどの海外に出すことを決めた。
 主力製品としては、パワーデバイス、光デバイス、汎用ロジック、小信号デバイスであり、これらを世界市場シェア1位にしたいと思っている。現在世界市場で8%のシェアだが、これを10%へ持って行きたい。
 加賀の200mm製造棟は、現在5,000枚/月の生産能力だが、月産7万枚まで持ち上げる予定である。

 最後に、2008年の事業環境は厳しいと予想している。しかし東芝は、リーディングイノベーションを掲げ、利益ある成長を目指して進んでいる。先に挙げた3つの主力分野において、IDMの力を最大限に発揮し、最先端技術と生産能力拡大の戦略により2010年2兆円を目指す。

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