セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

SPI主催 半導体エグゼクティブフォーラム・レポート(1)

|

セミコンダクタポータル主催の半導体ビジネス戦略セミナーが開催された。基調講演として、東芝執行役上席常務、セミコンダクター社社長齋藤昇三氏が、「東芝の半導体ビジネス戦略〜攻めの経営〜」と題して講演した。以下、セミコンダクタポータルのフォーラムで主だった講演をいくつか紹介する。

 東芝の半導体事業におけるビジネス戦略とは何か。
 最初に、2010年の事業構造ビジョンを示す(図1)。2010年に売上高2兆円、営業利益10%以上を狙っている。この事業を構成する製品ベースの3本柱は、1)メモリー、2)システムLSI、3)ディスクリートである。


東芝半導体の事業戦略

図1 東芝半導体の事業戦略


 2010年の事業環境は、マルチメディア化、モバイル化、グローバル化が進展すると予想されている。この事業環境を元に東芝は、収益体質を強化し、新しい成長に対応した事業基板の構築と資源投入分野の成果回収を行う。

 この「攻めの経営」を支えているのが、「生産能力を強化すること」である。現在までに四日市工場は、4棟のラインを建設した。これに加え、新製造棟2棟を同時に建設するする予定であり、1棟を四日市に、もう1棟を岩手東芝の敷地に建てる予定だ。つまり、製造ラインの強化は、いわゆる生産能力の論理である。

 一方、システムLSIに関しては、大分工場の300mmラインとソニー長崎を購入したことにより、製造生産能力を増やす計画である。一方ディスクリートは、大きな投資はしなかったが、加賀東芝に新たに200mmのラインを建設した。加賀東芝の製造ラインは未だに8インチのため、四日市工場から装置を流用し、あまり投資を行わなかった。

 このように東芝の特徴は、超最先端のラインからディスクリートまでの一貫したラインを持っていることである。この生産力強化で2010年に「2兆円」を目指す。

 図2に世界半導体市場概況を示す。2006年にWSTS(世界半導体市場統計)が予測したデータによると、2007年が5%、2008年は8.1%の伸び率を予想したが、2007年は、結局5%に達しなかった。これは、NANDフラッシュメモリーの価格が急激に下がったことが大きく影響しているためである。2008年は、オリンピック年で市況は良いと思うが、厳しいと予想している。しかし、5〜6%の成長は確実なため、十分な生産能力を準備している。


世界の半導体市場実績と予測

図2 世界の半導体市場実績と予測


 先ほど示した売り上げ目標「2兆円」を達成するためには、CAGR(平均年成長率)で11.4%を達成しなければならない。つまり、東芝が2兆円を狙うためには、業界成長率の倍の成長率を目指さなければならない。この目標達成のため、4つの成長戦略を実現する。
1)事業ポートフォリオに基づく、集中と選択の徹底
2)IDMとしての優位性堅持
3)技術先行性の維持
4)継続的な事業体質強化

 集中と選択では、NANDフラッシュ、システムLSI、ディスクリートそれぞれの事業分野で、その中でさらに集中と選択を行う。現在半導体製造メーカの選択として、ファブレスやファブライトの方向性も考えられるが、東芝は、開発から製造、販売までのIDM(垂直統合生産)モデルを追求する。また、成長戦略の一つとして、最先端プロセス・デバイス技術を推進して行く。NANDフラッシュの微細化が牽引役になり、この技術を他のデバイスに流用する。

 4つ目は、事業体質の強化である。コスト競争力を付けるためには、コスト優位性の確保が不可欠である。このため、集中と選択を行い、強い製品に投資を集中する。最後に根底として、コンプライアンスを厳守し、地球内企業としての活動を行う。

 東芝の売上高と利益の推移を見ると、2001年は、最悪であり、この年DRAMから撤退し、1,000億円の損益を出した。しかしながら、それ以降は右上がりで成長を続けており、営業利益的にも順調に右肩上がりとなった。2006年度の売り上げは1兆4,400億円であり、内訳はNANDフラッシュが40%、システムLSIが40%、ディスクリートが20%の割合になっている。今年2007年は、NANDフラッシュの価格ダウンの影響を受け、今回はこの1兆4,400億円を下回ることが予想されるが、まだ3月は時間があるので分からない。ただ、2009、2010年の計画は変えていない。今年のような価格ダウンに耐えられる体質を今後は強化する。

 2兆円達成には、既存のベースになる技術を、強い分野に集中して投入する。先ほども示したCAGRで11.4%の成長だが、主要5つの製品群のそれは、さらに20%以上の成長を必要とする。その集中特化する5つの製品群は、NANDフラッシュ、MCPパッケージ、パワーデバイス、ブロードバンドシステムLSI、イメージセンサーである。

 東芝の設備投資計画では2001年から積極的な投資を継続している。昨年は、3,050億円の投資を行った。今年は、ソニー長崎を約900億円で購入したことから、2007年度の設備投資額は、4,000億円を超える。これを継続的に2009年、2010年と続ける予定である。つまり、NANDフラッシュ、システムLSI、ディスクリートの分野において、投資を継続して行く。


メモリービジネスはチップ売りだけではない
 メモリーの提供形態としては、ファイルメモリーと、組み合せマルチチップの2種類がある。ファイルメモリーとは、NANDフラッシュを単体で提供し、各機器に搭載される形態と、カードの形式をいう。もう一つの提供方法としては、NANDフラッシュを使い、組み合せマルチチップパッケージ(MCP)で提供することである。NANDフラッシュをコアにして、売れる製品をモジュールの形式にして提供する。昔は、単体のチップを販売していたが、現在は、カードの形態で売るように、半導体メーカーも事業形態が変わってきた。

 メモリー事業戦略について述べる。3つの戦略が存在する。
1)事業領域の拡大/高収益性の維持
  (ア)継続的設備投資の実行・生産効率向上によるさらなるスループット向上
  (イ)多値NAND搭載MCPの規模拡大
  (ウ)後工程アロケーションの最適化によるコストマネージメント
2)微細化技術および超多値化技術の先行
  (ア)微細化の先行維持
  (イ)超多値化技術(3ビット/セル、4ビット/セル)の確立とマーケットの創出
3)競争力強化に向けた取り組み
  (ア)戦略的パートナーとの連携継続
  (イ)アライアンス会社との関係強化によるIPプロテクト網の構築
  (ウ)技術流出の阻止

月別アーカイブ