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時代変化の正しい認識が最も重要

「時代変化の正しい認識が企業経営で最も重要」、と元日産自動車副会長であり特許庁長官も歴任したカーライル・ジャパン会長の伊佐山健志氏は特許戦略を含めた企業経営の在り方を一言でこう表した。

この時代変化とは、1)ボーダーレス化が進んだ、2) 規制緩和が進み、グローバルなアウトソースが可能になってきた、3) 産業資本主義から金融資本主義へと変わり、同時にITやインターネットによる新しいビジネスモデルが出てきた、とする。これは、第4回東京工業大学精密工学研究所知財シンポジウム〜半導体産業における知的財産の「創造」、「保護」、そして「活用」〜の基調講演で述べたもの。


カーライル・ジャパン会長 伊佐山健志氏


企業戦略の視点からは、差別化商品に力を入れるべきであり、その企業の差別化できる商品開発を徹底し、強味をさらに強めるべきだと主張する。知的財産に関しては、それを商品として扱い、それをグローバルでどう売っていくかを考えるべきだという。たとえば知財商品に欠陥があればリコールし、チェックすることも大事だろうとしている。「この知財管理の重要性を経営者が認識していなければ、二つの問題に出くわす。一つはビジネスチャンスを逃す、もう一つはビジネスを乗っ取られる、ということだ。特許部門を売り上げの立たないコストセンターと見るのではなく、売り上げの立つプロフィットセンターとして見るようにしなければならない。すぐれた特許はプロフィットを生む」(同氏)。

ポスト産業資本主義の時代には、グローバルなリソースを生かす方向へ向かうべきだろう。さらに、知財を活用した経営こそ、有効な経営手段になりうる。同氏は、「特許をとることが目的となってはいけない。知財を育てることが重要で、国家に知財の環境を作らせるという制度つくりの提案も民間から積極的に行うべきだろう」という。さらに「知財の制度作りは国の仕事だから関係ないという態度をとるべきではない」と続ける。米国はかつて、ソフトウエアやモデリングを知財化した。それまでは米国では特許やデザインを知財として取り扱い、目に見えないソフトウエアを知財化することに大騒ぎした。ソフトウエアやモデリングの知財化は民間からの声に呼応して実現したものだ。

加えて、イノベーションとなる技術基盤の変化も見逃せない。単品生産からシステム的なものづくりへと動いていることも指摘する。製品がシステム化すればどこまでをハードウエアで作り、どこをソフトウエアで作るかという切り分けや、知財戦略を考えてどこをブラックスボックスとすべきモジュールにするか、ということが必要になってくる。すると、自社だけですべては賄いきれない。そこで、リソースをグローバルに調達することを考えればよいことになる。海外とのアライアンスはもちろん対象になる。

「今後も単品生産で満足するのなら、日本は欧米の下請けになってしまう。共同のイノベーション体制を考えよう」と提案した。時代の変化に即応できる企業体質へ変わるのなら、グローバルリソースの活用を組織的に組み込むべきだろうと勧める。

同氏は日産自動車時代にカルロス・ゴーン氏の手法を目の当たりにしてきた。ゴーンCEOは、日産の社員の意識革命、文化革命を起こしただけで、特別になにか新しいことを生み出したわけではない。かつての日産は稼働率が5割しかないのに稼働率を上げるための手立てを打たなかった。あらゆる部品の価格を徹底的に調べるとルノーよりも平均で2割も高い。総購買金額から2割削減すると6000億円もの無駄を省ける。また、従業員は技術力があるからよい商品さえ出せば売れるという意識にかたまっていた。利益を確保することよりもひたすら市場シェアを拡大することに力を入れてきた。その結果99年3月には2兆1000億円もの赤字を膨れませた。ゴーン氏の意識改革は、これを2年足らずで累積赤字を一掃し、日産を蘇らせたのである。

伊佐山氏はさらに、昨年マスコミにゴーン改革はもうおしまいだと書かれたことを残念がる。初めて減益になったことをマスコミはそれ見たことか、とゴーン氏をたたいた。しかし、今年になって業績は再び回復した。マスコミはもっと、ゴーン氏の意識革命を勉強してほしい、と同氏は述べた。

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