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大転換が求められる米政府のナノテク開発戦略におけるリスク研究

 Woodrow Wilson International Centerのナノテクプロジェクト(Project on Emerging Nanotechnologies)のChief Science Advisorを務めるAndrew Maynard氏は7月19日、現在の米国政府ナノテク・リスク研究対応に大きな転換を求める、『ナノテクノロジー:リスクに取り組むための研究戦略(Nanotechnology: A Research Strategy for Addressing Risk)』という報告書を発表した。

 本報告書では、米政府のナノテク研究開発年間投資総額が10億ドル以上もあるのに対して、1,080万ドルのみが健康・環境・安全面という重要関連リスクへの研究分野に投じられているだけであり、さらに現在のリスク研究は明確な戦略やリーダーシップに欠如しているものであると指摘している。ナノテク分野のリスク研究の知識のギャップは申告であり、ひいては、労働者、企業、消費者、投資家を危機にさらすものとなりうると警鐘している。


NANOTECHNOLOGY IMPLEMENTATION AND DEVELOPMENT

出典:NANOTECHNOLOGY: A Research Strategy for Addressing Risk Andrew D. Mayward, Woodrow Wilson International Center for Scholars


 2005年のナノテクノロジー市場は、320億ドル規模となったが、果たして安全面での確証は未だ不明瞭である。ナノテクノロジー研究は確かに新しい機会を経済・産業界にもたらすものであるが、しかし同時に新たなリスクも形成することから、環境・健康・安全(environment, health and safety = EHS)面でのリスクを理解・管理する研究なくしてはありえないという。
 全米科学財団(NSF)は、ナノテク関連の世界市場は2015年には1兆ドル規模に成長すると見ており、米国では約年間30億ドルがナノテク研究開発に投じられている。これは、全世界のナノテク投資の3分の1を占めるものとなっている。
 ナノテク・リスク評価の分野には深刻な知識のギャップが存在しており、このギャップを埋めるためには的を絞った戦略的研究が必要であるとして、Andrew Maynard氏は下記の7事項を提言している。


  • 米連邦政府が責任と主導権を持ったナノテク・リスク研究
    連邦政府には、ナノテクノロジーがもたらし得るリスクを体系的に調査するトップダウン型の包括的研究枠組みが必要である。ナノテク・リスク研究は、EHS問題の研究・監視という明白な使命を持った連邦省庁によって実施されるべきである。

  • リスク研究への十分な予算
    リスク研究のリード機関、環境保護庁(EPA)、国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health)、国立衛生研究所(NIH)、国立標準規格技術研究所(NIST)に、ナノテク・リスクだけに的を絞った研究に向こう2年間で最低1億ドルを投入する必要がある。

  • 短期的研究への優先度
    ナノテク・リスク研究は向こう2年間、商品化された、または、商業化間近のナノテクノロジーの安全性を保証することに焦点を当てるべきである。最優先事項は、(1)ナノ材料の汚染と環境放出の測定、(2)ナノ材料の毒性評価、(3)人造ナノ材料の汚染放出の抑制、(4)ナノ材料を安全に取り扱う「ベストプラクティス」の策定、等。

  • 産官共同研究資金のメカニズム構築
    政府の研究予算にてこ入れするため、産官共同研究資金を可能にするメカニズムを構築する。

  • 国際協調
    米国は、他諸国や経済地域と研究活動を調整し、コストをシェアし、情報を交換する方法を検討すべきである。

  • 米国省庁間横断型機関の新設
    戦略的研究アジェンダの設定・実施権限をもつ省庁横断型の監視グループを新設するべきである。

  • 長期的視野による研究
    将来の研究ニーズを確認し、戦略的研究枠組みにそれらを統合する方法について助言し、戦略的研究目標達成に向けた進捗状況を評価するため、独立機関による調査研究を確立すべきである。


全文は下記URLを参照のこと。
http://www.nanotechproject.org/67/7-19-06-nanotechnology-a-research-strategy-for-addressing-risk

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