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米国のエンジニア不足と中国インドへのリソース傾斜への警鐘

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デューク大学から報告書発行

 デューク大学のPratエンジニアリングスクールから『先入観の看破:中国とインドのより深い考察(Seeing through Preconceptions: A Deeper Look at China and India)』という報告書が出された。米国のエンジニア不足に対する危惧が必要以上に膨らんで、インド、中国のリソースへの期待が過剰視される昨今、数値にとらわれることなく、実態を分析することへの警鐘がなされた。

 報告書では、米国にはエンジニア不足など存在せず、中国とインドが米国以上のエンジニアを輩出しているという理由で米国内のエンジニア専攻卒業生を増やすというのは、エンジニアの失業を生み、その給与レベルを崩壊することになると指摘している。

 米国のエンジニアリング分野の学士数は年間7万人といわれ、中国の60万人、インドの35万人と大きく差があるように見える。しかしこの情報は果たして真実か。報告書は数値の実態調査にも及んだ。
 そこでわかったことは中国とインドは、エンジニア専攻の卒業生数を十分に追跡・把握していないということである。
 中国では、「エンジニア」に対する確立した定義がないため、メカニックや技術者が「エンジニア」に数えられている可能性がある。また、中国の「エンジニア」の約半数は、米国で言う二年制準学位の取得者である。
 インドの場合もエンジニアの定義は幅広く、米国のエンジニアという定義に正確にマッチするようなブレークダウンは存在しない。

 デューク大学が米国・中国・インドのエンジニア専攻卒業生数に関する世界最良のデータを寄せ集めたところ、エンジニア不足に悩まされているのは米国ではなく、むしろ、インドと中国であるという。
 さらに、実際米国の58企業への調査により、なぜ海外のエンジニアリングを求めるのかについて分析した。
 米国企業がエンジニアリング業務を中国やインドに移しているのは、米国が輩出するエンジニアが少数だからでも劣質だからでもなく、自社の経済面および競争面でのアドバンテージを考えて、研究開発業務を成長率の高い市場の近くに設置しているからであることが明らかになったという。同報告書は、米国の競争力について広く認識されている見解の多くを覆すことを目的とするもので、主な所見は下記の通り。
 米国の教育制度の改善は、米国の競争力の問題に対処する特効薬ではない。グローバルゼーションのもたらす利益を巧みに利用しながら、政府と業界が米国産業強化方法を確認することのほうが遙かに有益である。
 多国籍技術関係企業や地元の技術関係企業の代表者とのインタビューにより、中国にある大学の内、安心して雇える卒業生を輩出しているのは僅か10〜15%の大学にすぎないことが明らかになった。これ以外の大学ではエンジニアリング教育の質が劇的に落ち込み、中国の国家発展改革委員会によると、2006年に卒業した中国人エンジニア専攻卒業生の60%が就職できずにいるという。
 インドも、エンジニアリング教育機関の質で同様の問題を抱えている。但し、インドの場合は中国と違い、多国籍技術企業も地元の技術企業も、殆どの大学のトップクラス卒業生ならば安心して雇用できると回答している。
 報告書は、米国の世界市場での競争力の強化策は、まずは、幼稚園から高校までの教育改革を図り数学や科学重視へのシフトすること、大学のエンジニアリング卒業生を増加させること、基礎研究への投資を強化すること、そして、有能な移民のビザ(H1B)を増やすことにあるとしている。

米、中、印のエンジニアリング工学における修士号の推移 米、中、印のエンジニアリング工学における博士号の推移

上の図は、米、中、印のエンジニアリング工学における修士号の推移
下の図は、同じく同分野における博士号の推移
(いずれも資料は、Duke大学、Pratt エンジニアリングスクール)

参照資料:NEDOワシントン事務所 デイリーレポート

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